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サイバー攻撃

JAMA/JAPIAサイバーセキュリティガイドラインは「まず19項目」から!専門家がv2.2を分かりやすく解説 | 業界別対策

JAMA/JAPIAサイバーセキュリティガイドラインは「まず19項目」から!専門家がv2.2を分かりやすく解説

自動車業界の取引先から、ある日突然「サイバーセキュリティガイドラインに対応してください」と言われ、戸惑ってはいませんか? 153項目にもおよぶリストを前に、「専門知識もないし、一体どこから手をつければ…」と、具体的な一歩を踏み出せずにいる方も多いかもしれません。 しかし、ご安心ください。 このガイドラインは、公式が「まず取り組むべき」と示している「優先19項目」から始めるのが、もっとも確実で効率的な進め方なのです。 この記事では、セキュリティの専門家が、その「優先19項目」だけに的を絞り、最新のv2.2解説書をもとに、どこよりも分かりやすく解説していきます。 この記事を読めば、こんな疑問や不安がスッキリ解決します! なぜ今、自動車業界でセキュリティ対策が急がれているの? 153項目もあるガイドライン、結局どこから手をつければいい? 公式が推奨する「優先19項目」って、具体的に何をすればいいの? 19項目をクリアしたら、次は何を目指せばいいの? 読み終える頃には、漠然とした不安が「これならできそう!」という自信に変わっているはずです。 なぜ今、自動車部品サプライヤーにもセキュリティ対策が求められるのか 「セキュリティ対策は、大企業がやることでは?」 もし、そうお考えでしたら、少しだけ見方を変える必要があるかもしれません。 最近のサイバー攻撃は、企業の大きさに関係なく、取引先から取引先へとつながる「サプライチェーン」全体を狙うようになっています。 なぜ、それほどまでに対策が急がれているのか、その背景にある理由を一緒に見ていきましょう。 狙われる日本のサプライチェーン、他人事ではないセキュリティ事故 「うちのような中小企業は、攻撃者から見向きもされないだろう」 残念ながら、この考え方はむしろ逆です。 攻撃者は、セキュリティがしっかりしている大企業を正面から狙うことはしません。 その代わり、比較的対策が手薄になりがちな海外の拠点や、取引先である中小企業を最初のターゲットにします。 そこを踏み台にして、最終的にサプライチェーン全体をストップさせてしまうのです。 実際に、国内でも大きな被害が次々と報告されています。 2022年2月:トヨタ自動車の主な取引先である小島プレス工業がランサムウェア攻撃を受け、トヨタの国内全14工場が一時的にストップ。原因は、海外にある関連会社のVPN装置の弱点でした。 2020年6月:本田技研工業(ホンダ)がサイバー攻撃の被害に遭い、海外11拠点の工場がストップ。世界中の生産や出荷に影響が出ました。 2019年:トヨタの販売関連会社が不正アクセスを受け、最大で310万人分もの顧客情報が流出した可能性があると報道されました。 これらは、決して特別なケースではありません。 情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2024」というレポートでも、「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」は、企業が気をつけるべき脅威の第2位に挙げられています。 出典: 「情報セキュリティ10大脅威 2024」(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)) 自社が直接被害を受けるだけでなく、知らぬ間に攻撃の入り口にされてしまい、取引先にまで大きな迷惑をかけてしまう。 それが、今のサイバー攻撃のリアルな姿なのです。 ガイドラインへの未対応が「取引停止」につながる時代に サイバー攻撃の怖さに加え、もう一つ無視できないのが「ビジネス上の問題」です。 このガイドラインは、もはや「できれば対応してほしい」という努力目標ではありません。 サプライチェーン全体で守るべき「共通のルール」になりつつあるのです。 最近では、発注元である自動車メーカー(OEM)や大手部品メーカー(ティア1)が、取引の条件として「ガイドラインにきちんと対応していること」や「自己評価チェックシートを提出すること」を求めるケースがどんどん増えています。 もし、この条件に応えられなかったら、どうなるでしょうか。 新しい取引のチャンスを逃すだけでなく、もっと深刻なケースでは、今ある取引そのものが見直されたり、止められたりすることにもなりかねません。 セキュリティ対策は、自社を守るだけでなく、サプライチェーンにおける信頼の証となり、ビジネスを継続するための必須条件でもあるのです。 自動車業界の共通ルール「JAMA/JAPIAサイバーセキュリティガイドライン」って何? こうした背景から、日本の自動車メーカーの集まりである「日本自動車工業会(JAMA)」と、部品メーカーの集まりである「日本自動車部品工業会(JAPIA)」が力を合わせて作ったのが、「JAMA/JAPIAサイバーセキュリティガイドライン」です。 これは、日本の自動車産業に関わるすべての会社が、みんなでセキュリティレベルを上げていくための「共通の物差し」だと考えると分かりやすいかもしれません。 初版は2020年3月に公開され、最新版は2024年8月に出たVer.2.2です。 自工会/部工会・サイバーセキュリティガイドライン 経済産業省が作ったお手本も参考にしつつ、中小企業でも取り組めるような内容になっており、153項目のチェックリストを使って、それぞれの会社が「うちはここまでできています」と自分の状況を診断し、取引先に報告する、という使われ方を想定して作られています。 【結論】まず公式が示す「優先19項目」から始めよう 153項目もあると聞くと途方に暮れてしまいますよね。 しかし、ご安心ください。 冒頭でもお伝えしたように、すべてを一度にやろうとしなくていいのです。 ガイドライン対応の第一歩として、公式が「まず、ここから始めてみてください」と親切に教えてくれている「優先19項目」に集中することが、もっとも確実で効率的な進め方です。 なぜ「優先19項目」だけでいいの?公式のお墨付きがあるから安心 「本当に19項目の対策だけで、取引先に十分だと認められるの?」 そんな心配をされるかもしれません。 しかし、このやり方は、私たちが勝手に考えたものではなく、ガイドラインを作ったJAMA/JAPIA自身が「この方法で進めてください」とオススメしている、れっきとした公式な進め方なのです。 ガイドラインVer.2.2に付いてくる「セキュリティ推進担当者向け解説資料」という文書にも、はっきりとこう書かれています。 「レベル1(50項目)の取り組みに対しても対応する事は困難」という企業の声を受け、特に優先度の高い項目を抽出した。 つまり、多くの会社が対応に困っている状況を分かった上で、「特にこれだけはやっておいてほしい」という重要で、かつ効果が出やすい対策として、この19項目が選ばれたというわけです。 ただ、一つだけ気をつけてほしいことがあります。 これは「19項目だけやれば、もう何もしなくていい」という意味ではありません。 あくまで、確実な一歩を踏み出すためのスタート地点。 この19項目をクリアしたら、残りのレベル1の項目、そしてレベル2へと、少しずつ対策を広げていくことが、最終的なゴールになります。 「優先19項目」の全体像は?「事故への備え」と「侵入させない対策」 では、その19項目とは、具体的にどんな内容なのでしょうか。 これらは、大きく2つのグループに分けられます。 もしも事故が起きた時のための備え(計8項目): 万が一、攻撃を受けてしまった場合に、被害をできるだけ小さくするための「守りの備え」です。 そもそも侵入させない・広げないための基本的な対策(計11項目): 攻撃者に入り込む隙を与えず、もし入られても被害を広げないための「基本的な守り」です。 このように、19項目は「何かあった後の対応(事後対応)」と「そもそも何かを起こさせないための対策(事前対策)」の両方から成り立っており、どちらかが欠けても、十分な対策とは言えないのです。 次は、この2つのグループについて、具体的に何をすればいいのかを、一つひとつ見ていきましょう。 【第1部】事故発生に備えた構え(8項目) サイバー攻撃を100%防ぎきることは不可能だ、という前提に立って、何かあった時でも、事業への影響を最小限にするための「構え」を固めるのが、この第1部の目的です。 具体的には、以下の3つのテーマに沿った8項目を確認していきます。 【緊急時の対応】責任者を決め、連絡先と手順を決めておく なぜ必要なの? 何か問題が起きた時、一番大切なのは「最初の動き出し」です。 誰がリーダーで、誰に連絡して、何をすればいいのかが決まっていないと、対応はどんどん遅れ、被害はあっという間に広がってしまいます。 「もっと早く動いていれば…」と後悔しないためにも、普段からの準備が欠かせません。 何をすればいいの? ガイドラインでは、「事故が起きた時のためのチームと、それぞれの人の役割を決めておくこと」が求められています。 具体的には、以下の3つを準備しておくと安心です。 チーム作り: 社内にCSIRT(シーサート)と呼ばれるような緊急対応チームを作り、責任者とメンバーの役割分担を決めておきます。CSIRTは「Computer Security Incident Response Team」の略で、セキュリティ問題に対応する専門チームのことです。 連絡先リスト: 社内(社長や役員、関係部署)だけでなく、社外(いつも頼んでいるセキュリティ専門会社、警察、IPAの相談窓口など)も含めた緊急連絡先リストを作っておきます。 報告ルール: 問題を見つけてから、最終的に報告するまでの流れを決めておきます。報告に使うための簡単なフォーマットも用意しておくと、いざという時にスムーズです。 どう進めればいいの? まずは、問題が起きた時に指揮をとる責任者を決めるところから始めましょう。 そして、考えられる被害(ランサムウェアでPCが使えなくなる、情報が盗まれるなど)ごとに、「発見→報告→初動対応→調査→復旧→報告」という一連の流れを時系列で書き出します。 それぞれの段階で「誰が」「何をするか」を具体的に当てはめて、簡単な手順書を作っておくのです。 完成した計画は、年に1回くらいは見直したり、訓練したりして、本当に使えるかどうかを確認しておくことが大切です。 【バックアップ】重要なデータを決め、復元できるか試しておく なぜ必要なの? ランサムウェア攻撃の一番の目的は、会社のデータを勝手に暗号化して使えなくし、元に戻すためのお金を要求することです。 もし、元に戻せるバックアップがなければ、仕事に欠かせない大事なデータを永遠に失ってしまうかもしれません。 最近では、オンライン上にあるバックアップデータごと破壊する巧妙な手口も増えており、ただバックアップを取っているだけでは、安心とは言えなくなっています。 何をすればいいの? ガイドラインが求めているのは、「適切なタイミングでバックアップを取り、復元するための手順書を作っておくこと」です。 ポイントは以下の3つです。 大事なデータの特定: 仕事を進める上で、これがないと困るデータ(例: 図面、設計データ、顧客リスト、受発注の記録など)は何かをはっきりさせます。 定期的で安全な保管: バックアップを取る頻度を決め、取ったデータは会社のネットワークから切り離した場所(オフライン)や、物理的に別の場所(遠隔地)に補完します。 復旧手順の文書化: 誰が見ても分かるように、具体的な復元手順を紙か誰でも見られるファイルに残しておきます。 どう進めればいいの? まずは、自社にとっての「大事なデータ」をリストアップし、それぞれのバックアップ頻度(毎日なのか、週に一度なのか等)と保管の仕方を決めたルールを作りましょう。 そのルールに従ってバックアップを取り、同時に「このバックアップから、この手順で復元する」という手順書を整備します。 年に1回くらいは、実際にバックアップからシステムを元に戻してみる「復旧テスト」を行うのが理想です。 テストをしてみることで、手順書の間違いや、考えてもみなかった問題点が見つかるものです。 【事業の継続】システム停止を想定した代替手段を考えておく なぜ必要なの? 大きなサイバー攻撃を受けると、中心となるシステムや工場の生産システムが、何日も、あるいは何週間も止まってしまうことがあります。 その間、生産や出荷が止まってしまうと、自社の損失はもちろん、サプライチェーン全体に多大な迷惑をかけることになり、会社の信頼を根本から揺るがすことにもなりかねません。 何をすればいいの? 求められているのは、「システムが止まっても仕事を進められる代わりの方法を用意しておくこと」、つまり、サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)を作っておくことです。 ITシステムがまったく使えなくなった時に、どうやって大事な仕事を続けるか、そのやり方をあらかじめ決めておくのです。 公式の資料でも、代わりの方法として、こんな例が紹介されています。 アナログな方法:FAXや電話で注文を受けたり、発注したりする。 他のサービスを使う:クラウド上にある別のシステムを利用する。 どう進めればいいの? まず、それぞれの仕事が「最大で何時間(何日間)なら止められるか」(目標復旧時間:RTO)をはっきりさせます。 その時間内に元に戻せない場合に備えて、具体的な代わりの方法を考えておきましょう。 例えば、「受発注システムが止まったら、主な取引先とはFAXでやり取りする」といった具体的なルールです。 決めた内容は、サイバー攻撃版のBCPとして文書にまとめ、年に一度は訓練してみて、本当に有効かを確認することが重要です。 先ほど紹介した小島プレスの被害例では、システムが止まっている間、FAXで受発注を続けたことが、被害の広がりを抑える一因になったと言われています。 【第2部】侵入・拡散させない基本のセキュリティ対策(11項目) 第2部では、そもそも攻撃者に入り込む隙を与えず、万が一中に入られても、被害を内部に広げないための「基本的な守り」について解説します。 どれも当たり前に聞こえるかもしれませんが、多くの企業で十分にはできていない項目でもあります。 自社の状況と比べながら、一つひとつチェックしていきましょう。 【情報収集】IPAやJPCERT/CCで、脆弱性や攻撃の手口を知っておく なぜ必要なの? 攻撃者のやり方は、毎日どんどん巧妙で、多様になっています。 昨日まで安全だった方法が、今日にはもう通用しなくなるのがサイバーセキュリティの世界です。 新しい脅威(どんな弱点が見つかったか、どんな攻撃が流行っているか)を知らなければ、効果のある対策は打てません。 何をすればいいの? ガイドラインでは、「新しい攻撃の手口を知り、その対策を社内で共有していること」が求められています。 普段から信頼できる情報源から情報を集め、社内の関係者に知らせる仕組みを作っておきましょう。 どう進めればいいの? まずは、信頼できる情報源を定期的にチェックする習慣をつけるのがおすすめです。 IPA(情報処理推進機構): 「情報セキュリティ10大脅威」など、分かりやすいレポートを公開しています。 JPCERT/CC: システムの弱点(脆弱性)に関する専門的な情報を発信しています。 J-Auto-ISAC: 自動車業界に特化したセキュリティ情報を共有する組織です。 これらのサイトを見て回ったり、メールマガジンに登録したりして、自社で使っている製品の弱点情報や、自動車業界を狙った攻撃のニュースなどを集めます。 そして、集めた情報を「月例セキュリティニュース」として社内で共有したり、特に急ぎの場合はアラートとして注意を呼びかけたりする、といった運用ルールを決めておくと良いでしょう。 【脆弱性対応】セキュリティパッチは、期限を決めて必ず当てる なぜ必要なの? 私たちが普段使っているPCのOSやソフトには、後から「脆弱性(セキュリティ上の弱点)」が見つかることがよくあります。 ソフトウェアメーカーは、その欠陥を修正するためのプログラム(パッチやアップデート)を配布しています。 これをサボっていると、攻撃者に「どうぞ、ここから入ってください」とドアを開けているようなものです。 実際に、サイバー攻撃の多くは、この"分かっていたはずの弱点"を狙って行われます。 何をすればいいの? 「セキュリティパッチやアップデートを、きちんと適用すること」が求められます。 具体的には、社内ルールとして「パッチが公開されたら、〇週間以内に適用する」といった期限を決めて、それを守ることが大切です。 PCやサーバーだけでなく、ネットワークにつながる機械のファームウェアなど、社内にあるIT機器すべてが対象になります。 どう進めればいいの? まず、社内でどんなIT資産(PC、サーバー、ソフト、ネットワーク機器など)が使われているかをまとめた「資産台帳」を整備します。 その上で、「Windowsの更新は毎月第3水曜日に必ず行う」といった具体的な運用ルールを決めましょう。PCなどは自動更新をオンにしておくのが基本です。 どうしてもアップデートできない古い機械などがある場合は、その理由を記録に残し、ネットワークから切り離すなどの代わりの対策を取ることが重要です。 【ウイルス対策】対策ソフトを導入し、定義ファイルを常に最新にしておく なぜ必要なの? ランサムウェアなどのマルウェア(悪意のあるプログラム)は、メールの添付ファイルや、書き換えられたWebサイトなど、いろいろなルートでPCやサーバーに入り込んできます。 そして、一台の機械に入り込んだのをきっかけに、社内のネットワーク全体へと広がり、大きな被害をもたらすことがあります。 これを防ぐための基本中の基本が、ウイルス対策ソフトです。 何をすればいいの? 「すべてのパソコン、サーバーにウイルス対策ソフトを入れ、パターンファイル(ウイルス定義ファイル)を常に最新の状態にしておくこと」が求められます。 パターンファイルとは、ウイルスの特徴を記録したデータのこと。 これを最新にしておかないと、新しいウイルスを見つけることができません。 どう進めればいいの? まず、社内のすべてのPCとサーバーにウイルス対策ソフトをインストールします(Windowsに標準で入っているDefenderを有効にするだけでもOKです)。 そして、必ず「自動アップデート機能」をオンにして、パターンファイルが毎日、自動で更新されるように設定しておきましょう。 複数のPCをまとめて管理できる製品を使っているなら、管理画面から全部の端末の状況を定期的に見て、更新に失敗している端末がないかを確認する運用が理想的です。 【パスワード管理】初期設定から変更し、複雑なものを使い回さない なぜ必要なの? 攻撃者は、簡単なパスワードを常に狙っています。 「admin」や「password」、「123456」のような単純なものはもちろん、ネットワーク機器を買った時に設定されている最初のパスワード(デフォルトパスワード)をそのまま使っていると、驚くほど簡単に入られてしまいます。 また、色々なサービスで同じパスワードを使い回していると、どこか一ヶ所で情報が漏れた時に、他のシステムも芋づる式に乗っ取られてしまう危険があります。 何をすればいいの? 「パスワードの設定に関するルールを決めて、全員に知らせておくこと」が求められます。 具体的には、以下の内容を含んだルールが必要です。 長さと複雑さ: 十分な長さ(例: 12文字以上)と、英語の大文字・小文字・数字・記号を組み合わせる。 最初のパスワードは必ず変更: 機械を導入した時や、パスワードをリセットした時は、必ず最初のパスワードを変えさせる。 使い回しの禁止: システムごとに違うパスワードを設定する。 どう進めればいいの? まず、自社のパスワードルールを作って、全従業員にしっかりと知らせましょう。 そして、社内にあるすべてのIT機器やシステムの管理者パスワードをチェックし、最初の設定のままになっているものがないかを確認し、あればすぐに変更します。 退職した人のアカウントが残っていないか、誰でも使える共通のアカウントが存在しないかなども、定期的に見直すことが大切です。 【アクセス権の管理】権限は「必要最小限」に。定期的な見直しも忘れず なぜ必要なの? クラウドストレージや社内のファイルサーバーはとても便利ですが、設定を一つ間違うだけで、会社の外の誰からでもアクセスできる状態になり、情報漏洩にすぐにつながってしまいます。 「便利だから」という理由で、全社員が見られる共有フォルダを作ったり、安易に外部リンクでファイルを共有したりするやり方は、とても危険です。 何をすればいいの? 求められているのは、「アクセスできる権限を、必要最小限にコントロールすること」です。 仕事の上で、本当にその情報を見る必要がある人にだけ、見たり編集したりする権限を与える、という「必要最小限の原則」を徹底します。 そして、その権限が今も本当に必要かどうかを「定期的に見直す」ことが求められます。 どう進めればいいの? まず、社内の情報資産(ファイルサーバー、クラウドストレージなど)の権限設定についての基本ルールを決めます。 例えば、「共有フォルダは部署ごとにアクセス権を分け、全社で共有するフォルダは原則として作らない」「外部リンクで共有する時は、必ず情報管理者の許可をもらう」といったルールです。 そのルールに沿って、今の設定をすべて見直し、もう必要のない権限(例: 部署を異動したのに残っている前の部署のフォルダへの権限)は削除しましょう。 そして、半年に一度、あるいは年に一度は、すべてのアクセス権の設定が適切かどうかをもう一度チェックする「棚卸し」を行い、その結果を記録として残すことが大切です。 「優先19項目」をクリアしたら?信頼をさらに高めるための次のステップ ここまで解説してきた19項目への対応、お疲れ様でした。 これらを一つひとつ実行すれば、ガイドライン対応の大きな一歩を踏み出したことになります。 では、この先には何があるのでしょうか。 19項目を達成した後の「次のステップ」について解説します。 まずはガイドライン「レベル1」の項目をすべて達成しよう 今回取り上げた19項目は、ガイドラインが定めている「レベル1」(全部で50項目)の中でも、特に優先して取り組むべきものです。 つまり、レベル1を完全に達成するには、まだ残りの項目がある、ということです。 具体的には、「PCやスマホの基本的なセキュリティ設定」や「従業員へのセキュリティ教育」、「関連するルールの整備」といった項目です。 19項目をクリアして、基本的な守りと備えの土台ができあがったら、ぜひ、このレベル1の完全達成を目指してみてください。 レベル1の項目をすべて網羅できれば、サプライチェーンの一員として、まず最低限の信頼基準はクリアしたと言えるでしょう。 「やったつもり」では不十分?「脆弱性診断」で客観的なお墨付きを 19項目の対策をやってみたけれど、 「これで本当に大丈夫なのだろうか?」「自分たちの評価は甘すぎないか?」 といった不安は残っていませんか? 自分たちだけの評価では、専門家でないと気づけないような設定の間違いや、思いもよらないセキュリティホールを見落としてしまう、「やったつもり」のリスクがあります。 また、自社内の評価だけでは、取引先に対して「我が社は安全です」と示すには説得力が弱い場合もあります。 そこで、一度検討してみていただきたいのが、専門家による「脆弱性診断」です。 脆弱性診断とは、一言でいえば「セキュリティの健康診断」のようなものです。 攻撃者と同じ目線を持つプロが、皆さんの会社のシステムを実際に調べて、弱点がないかを客観的に洗い出してくれます。 実は、ガイドラインのレベル3でも、外部に公開しているサーバーに対しては脆弱性診断を行うことが求められており、プロの目によるチェックがいかに重要かが分かります。 そして、脆弱性診断の一番の価値は、弱点を見つけることだけではありません。 第三者の専門機関が出してくれた客観的な診断レポートは、取引先に対して「私たちはガイドラインを守り、客観的な安全性も確認済みです」と伝える上で、何よりも強力な"説得材料"になります。 ガイドライン対応を確実なものにして、他の会社との違いを明確にし、取引先からの信頼を勝ち取るためにも、一度、専門家による脆弱性診断を考えてみてはいかがでしょうか。 まとめ:「優先19項目」は始まりの合図。取引先に"安心"を届ける次の一歩へ ここまで、JAMA/JAPIAサイバーセキュリティガイドライン対応の最初の一歩として、公式が推奨する「優先19項目」を具体的に解説してきました。 サイバー攻撃がもはや他人事ではなく、対策を後回しにすることがビジネス上のリスクに直結する今、何から始めれば良いかが、かなりハッキリしたのではないでしょうか。 まとめ 何よりも先にやること: まずは公式が示す「優先19項目」から手をつける 対策は両輪で: 「もしもの備え(8項目)」と「基本的な守り(11項目)」 ビジネスの視点: ガイドライン対応は、取引先からの信頼を得るためのパスポート 次の目標: 19項目を達成したら、次は「レベル1」の完全制覇へ 私たち株式会社アイ・エフ・ティは、1,000件を超える脆弱性診断実績を持ち、ツールの網羅性と専門家の深い知見を組み合わせ、費用対効果の高いセキュリティ対策を実現します。 もし、ガイドライン対応をより確実なものにしたい、専門家からの客観的なアドバイスが欲しい、と感じたら、ぜひお気軽にご相談ください。 お客様の状況に合わせた最適なプランをご提案可能です。 まずはリスクの再確認から始め、より具体的な診断にご興味があれば、ぜひお気軽にご相談ください。

システム開発セキュリティ|政府ガイドラインを超訳!「手戻りさせない」開発の鉄則 | 脆弱性診断とは

システム開発セキュリティ|政府ガイドラインを超訳!「手戻りさせない」開発の鉄則

はい、承知いたしました。 ご指示に基づき、出典に関する記載部分をすべて指定のボックス形式で囲ったものを以下に出力します。 Generated html システム開発を進める中で、「セキュリティ対策、何から始めれば…」と悩んだ経験はありませんか。 特に、専門用語が並ぶガイドラインを目にすると、どこから手をつければ良いのか分からなくなりがちです。 実は、対策を後回しにした結果、開発の最終段階で手戻りが発生し、開発の遅延や修正コストの大幅な増加につながってしまうケースは決して少なくないのです。 こうしたリスクを避け、安全なシステムを効率的に作る鍵こそ、開発の初期段階でセキュリティを組み込む「セキュリティ・バイ・デザイン」という考え方です。 この記事では、数ある政府の指針の中でも、特に実践的でシステム開発の現場に寄り添った内容である「デジタル社会推進実践ガイドブック DS-200 政府情報システムにおけるセキュリティ・バイ・デザインガイドライン」に焦点を絞り、その要点を紐解きながら、開発現場で本当に役立つ「セキュリティ・バイ・デザイン」の実践ポイントを分かりやすく解説します。 この記事を読んでわかること 「セキュリティ・バイ・デザイン」の本当の意味と、なぜ今それが重要なのか 政府の難しいガイドラインが、驚くほどスッキリわかる「6つの基本方針」 開発現場で明日から使える、開発フェーズごとの具体的な実践ポイント 読み終える頃には、あなたのプロジェクトで次に何をすべきか、その具体的なステップが見えているはずです。 まずは基本から!セキュリティ・バイ・デザインの考え方とは? 「セキュリティ・バイ・デザイン」と聞くと、何か特別なツールを導入したり、専門家だけの難しい話に聞こえるかもしれません。 しかし、その本質は「システム開発の企画・設計段階から、あらかじめセキュリティを考慮した仕組みを組み込んでおく」という、きわめてシンプルな考え方です。 従来のように、開発がすべて完了してから対策を行うやり方では、手戻りやコスト増大を招くだけでなく、巧妙化するサイバー攻撃にも対抗できません。 この非効率な状況を打開するのが、セキュリティ・バイ・デザインなのです。   では、この考え方を具体的にどう開発現場に落とし込めば良いのでしょうか。 その強力な道しるべとなるのが、国が示すガイドラインです。 ただし、政府からはさまざまなガイドラインが公表されていますが、中には理念的で、すぐに具体的なアクションに繋げにくいものも少なくありません。 そこでこの記事では、数ある指針の中から、特に開発ライフサイクルの各工程で「誰が・何を・いつやるべきか」が明確に示され、実践的だと評価されている「DS-200」に焦点を絞って解説します。 参考:デジタル庁「デジタル社会推進標準ガイドライン」 このガイドラインを読み解くことが、あなたのプロジェクトでセキュリティ・バイ・デザインを実践するための、もっとも確実な近道となるはずです。 企画・設計という開発の最も早い段階からセキュリティ要件を組み込むことで、品質・コスト・納期のすべてにおいてメリットをもたらす、いわば「良い製品を作るための本質的な開発思想」と言えます。 国際的なアプリケーションセキュリティの指標である「OWASP Top 10 2021」でも、新たに「A04:2021 – 安全でない設計(Insecure Design)」が脅威の上位に組み込まれ、この考え方の重要性は世界的な潮流となっています。 政府ガイドラインの要点!セキュリティ・バイ・デザイン6つの基本方針 それでは、具体的にガイドラインの中身を見ていきましょう。 出典:産業サイバーセキュリティ・セーフティの実現に向けた課題と対策について(情報処理推進機構(IPA)) ガイドラインでは、「セキュリティ・バイ・デザイン」を実践するための基本方針として、以下の6つが示されています。 ここでは、それぞれのポイントを「つまり、どういうことか?」という視点で分かりやすく解説します。 1. 経営者のリーダーシップとリスク分析が全ての始まり ポイント解説 セキュリティ対策は、現場任せにせず、経営トップが責任を持って進める。そして、守るべきものが何かを最初に決めましょう セキュリティ対策には、コストも時間もかかります。 現場の開発者だけで「やりましょう」と声を上げても、予算や人員の確保は困難です。 だからこそ、経営者がその重要性を理解し、リーダーシップを発揮して全社的に取り組む姿勢を示すことが、すべての始まりです。 その上で、自分たちのシステムにとっての「リスク」とは何かを具体的に洗い出します。 「顧客情報が漏洩すること」が最大のリスクなのか、「サービスが停止すること」が最大のリスクなのか。守るべきものの優先順位を明確にすることで、限られたリソースをどこに集中させるべきかが見えてきます。 2. 開発委託先や利用サービスも含めたサプライチェーン全体の安全確保 ポイント解説 あなたのシステムは、自社だけで完結していますか?開発を外部に委託したり、便利なクラウドサービスやオープンソースのライブラリを使ったりしていませんか? それら全てを含めて、全体で安全性を考えなければなりません 自社のコードがどんなに安全でも、利用している外部のコンポーネントに脆弱性があれば、そこが攻撃の侵入口になり得ます。 事実、IPAが発表した「情報セキュリティ10大脅威 2024」でも、「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」は組織向け脅威の第2位にランクインしており、自社だけでなく取引先や利用サービスも含めた全体のリスク管理が欠かせません。 出典:情報セキュリティ10大脅威 2024(IPA) 3. 「侵入される前提」で考える多層防御の考え方 ポイント解説 完璧な防御はありえない、という前提に立ちましょう。一つの防御が破られても、次の防御で攻撃を食い止められるように、何重にも備えを設なければなりません 例えば、城の防御を考えてみてください。 城壁だけで守るのではなく、堀があり、石垣があり、いくつもの門が構えられています。 どれか一つが突破されても、簡単には中心部にたどり着けないようになっています。 システムのセキュリティもこれと同じです。 ネットワークの入り口での防御(ファイアウォール)、サーバーへのアクセス制限、データの暗号化、不正アクセスの監視など、複数の異なる対策を組み合わせることで、もしもの時にも被害を最小限に抑えることができます。 4. コストを抑える鍵は「シフトレフト」にあり ポイント解説 開発工程の後半、つまり下流工程になってからセキュリティ対策をするのは手遅れです。もっと早い段階(シフトレフト)で対策を始めましょう これが、まさにセキュリティ・バイ・デザインの核心です。 建物の設計図が完成してから「耐震性が足りないので柱を増やしてください」と言われたら、設計を根本からやり直す必要があり、大変な手間とコストがかかります。 システム開発も同じで、実装やテストの段階で重大な設計上の欠陥が見つかると、その影響は計り知れません。 早い段階で対策を行うほど、修正コストは劇的に抑えられます。 5. 一度作って終わりではない!変化への備えと継続的な改善 ポイント解説 システムは作って終わりではありません。将来、新たな脅威が登場した際に、すぐに対応できるような仕組みをあらかじめ設計に組み込んでおく必要があります 具体的には、不正アクセスを検知するためのログ監視の仕組みや、脆弱性が見つかった際に速やかにパッチを適用できる運用体制などを、開発段階から想定しておくことが大切です。 事実、IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2024」では、脆弱性情報が公開された後に攻撃を仕掛ける「公開された脆弱性の悪用」が常に上位に入っており、リリース後の継続的な脆弱性管理がいかに重要かを示しています。 出典:情報セキュリティ10大脅威 2024(IPA) 6. もしもの時に被害を抑えるインシデント対応計画 ポイント解説 どれだけ備えても、インシデント(事故)の可能性をゼロにはできません。万一の場合に備え、『誰が、何を、どのように対応するか』という計画を事前に決め、訓練しておくことが被害を最小限に抑える鍵となります 実際に、IBM社の調査レポートによれば、サイバー攻撃を受けてからその侵害を発見し封じ込めるまでに要した日数は、平均で277日(約9ヶ月)にも上ったといいます。 事前の計画や訓練がなければ、被害がどこまでも拡大してしまうリスクがあるのです。 出典:データ侵害のコストに関する調査 2024年版(IBM Security) 【実践編】開発フェーズごとのセキュリティ実践ポイント さて、ここからはより実践的な内容に入っていきましょう。 6つの基本方針を踏まえ、実際のシステム開発ライフサイクル(企画から運用まで)の各フェーズで、具体的にどのようなセキュリティ対策を行えばよいかを見ていきます。 なぜ「シフトレフト」が重要?データが示すコストとリスク これから各開発フェーズでの具体的なポイントを解説しますが、その前に、なぜ「シフトレフト(上流工程での対策)」がこれほど大切なのかを、データからご紹介します。 修正コストの事実: 運用段階での脆弱性修正コストは、設計段階と比較して100倍以上に達する場合があると言われています。 国際標準の事実: 「OWASP Top 10 2021」では、「A04:Insecure Design(安全でない設計)」が新たにカテゴリインし、国際的にも上流工程での対策の重要性が認識されています。 出典:産業サイバーセキュリティ・セーフティの実現に向けた課題と対策について(情報処理推進機構(IPA)) 出典:OWASP Top 10 2021(OWASP) これらのデータは、「開発の後工程で対応しようとすること」の非効率さと限界を示しています。 この記事を読んでいる皆さんと私たちのゴールは、この負の連鎖を断ち切ることです。 【企画】リスク分析と管理体制の構築 プロジェクトの開始地点で「自分たちのシステムには、どのような脅威が存在し、何を重点的に守るべきか」を明確にする これが、この後の全工程の土台となります。 このフェーズでは、まず自社のシステムがどのような情報を扱い、誰が利用し、他のどんなシステムと連携するのかといった全体像(システムプロファイル)を整理します。 その上で、「STRIDE」のような脅威モデリングのフレームワークを参考に、想定される脅威を網羅的に洗い出します。 「情報セキュリティ10大脅威 2024」で挙げられているような標的型攻撃やランサムウェアといった脅威を自分たちのシステムに当てはめ、「もし攻撃されたらどうなるか?」と具体的にシミュレーションしてみることで、初めて具体的なリスクが浮き彫りになります。 出典:情報セキュリティ10大脅威 2024(IPA) 【要件定義・設計】セキュリティ要件を設計に落とし込む 洗い出した脅威に対して、「どのような対策をとるか」という具体的なセキュリティ機能を設計に落とし込む このフェーズでは、「多層防御」の考え方に基づき、認証・認可(アクセス制御)の方式、暗号化の対象と方式、監視のために取得すべきログの内容といった、具体的なセキュリティ要件を定義し、設計書に明記します。 「OWASP Top 10 2021」で脅威の第1位となっている「アクセス制御の不備」が示すように、要件定義の段階で「誰が、何に、どのようにアクセスできるか」を厳密に定義し、それを設計に反映することがきわめて大切です。 出典:OWASP Top 10 2021(OWASP) 【実装】脆弱性を作り込まないセキュアコーディング 安全なコーディングルールを守ることが、脆弱性を作り込まないための鍵 どんなに素晴らしい設計図があっても、現場の工事がいい加減では安全な建物は建ちません。 実装フェーズも同様で、セキュアコーディングの原則を守ることが不可欠です。 たとえば、IPAが公開している「安全なウェブサイトの作り方」や、OWASPが提供する「チートシートシリーズ」などを参考に、組織としてコーディング規約を定め、それに従って開発を進めるとよいでしょう。 特に、SQLインジェクションやクロスサイト・スクリプティングといった代表的な脆弱性を生まないための「入力値の検証(バリデーション)」や「出力値のエスケープ」は、必ず徹底すべき基本中の基本です。 【テスト】リリース前の最後の砦!脆弱性診断 設計通りに安全なコードが書かれているか、専門家の目で厳しくチェックすること テストフェーズでは、機能が要件通りに動くかを確認するだけでなく、セキュリティの観点からのテストも欠かせません。 ここで見逃されていた脆弱性を発見した場合には、リリース前に修正します。 テスト手法の具体例 静的アプリケーションセキュリティテスト(SAST): ソースコードを解析し、脆弱性のパターンに合致する箇所がないかを機械的に検査します。 動的アプリケーションセキュリティテスト(DAST): 実際にアプリケーションを動作させながら、外部から攻撃者のように疑似攻撃を仕掛けてみて、脆弱性がないかを確認します。 ペネトレーションテスト(脆弱性診断): 専門の技術者が、さまざまな手法を用いて実際にシステムへの侵入を試み、セキュリティ上の弱点がないかを包括的に診断します。 ツールによる機械的な診断(SAST/DAST)も重要ですが、それだけでは攻撃者の巧妙な手口や、ビジネスロジックの盲点を突いた攻撃を防ぎきることは困難です。 だからこそ、リリース前の「最後の砦」として、経験豊富な専門家が攻撃者の視点でシステムの弱点を洗い出すペネトレーションテスト(脆弱性診断)が、極めて重要なのです。 株式会社アイ・エフ・ティは、1,000件以上の診断実績で培った豊富な知見とノウハウを元に、ツールでは発見困難な脆弱性まで深く掘り下げて特定します。 単に問題点を指摘するだけでなく、開発現場がすぐに対応できる具体的な改善策まで踏み込んで提案することで、皆さんのシステムをより安全な状態へと導きます。 【運用】継続的な監視と速やかな対応体制 ポイント解説 システムをリリースして終わりではありません。新たな脅威や脆弱性の発見に常に備え、すぐに対応できる体制を維持し続けることが大切です。 システムをリリースした後も、セキュリティの戦いは続きます。 新たな脆弱性が見つかれば、速やかにセキュリティパッチを適用する必要があります。 また、システムのログを常に監視し、不審なアクセスの兆候がないかを確認し、インシデントの発生を早期に検知する体制も欠かせません。 まとめ:セキュリティ対策は次のステージへ、開発プロセスからの変革が鍵 この記事では、政府のガイドラインを基に、システム開発における「セキュリティ・バイ・デザイン」の重要性と、具体的な実践方法を解説してきました。 もはやセキュリティ対策は、開発の後工程で付け加えるコストではなく、手戻りを防ぎ品質を向上させるための重要な投資です。 この記事で解説したポイントを、ぜひあなたのプロジェクトでも意識してみてください。 経営層を巻き込み、守るべき資産の優先順位を決める 外部委託先や利用サービスも含めたサプライチェーン全体で安全を確保する 侵入を前提とした「多層防御」で被害を最小化する インシデント対応計画を事前に準備し、迅速な復旧を目指す 「シフトレフト」を合言葉に、開発の早い段階からセキュリティを組み込む 今回解説した「セキュリティ・バイ・デザイン」を実践することで、手戻りのリスクは大幅に削減できるはずです。 しかし、「本当に自分たちの対策は万全だろうか?」「設計や実装段階での見落としはないだろうか?」といった懸念は、どうしても残るものです。 その最後の不安を解消し、自信を持ってシステムをリリースするための最終チェックが、専門家による脆弱性診断です。 株式会社アイ・エフ・ティは、1,000件以上の診断実績を持つ脆弱性診断のプロフェッショナルです。 お客様のシステムに潜むリスクを攻撃者の視点で洗い出し、具体的な改善策までご提案します。 「自社のセキュリティレベルを客観的に把握したい」 「リリース前の最終確認を専門家に頼みたい」 そんな時は、ぜひ一度私たちにご相談ください。

自治体のセキュリティ対応、ガイドライン改定で何が変わる?担当者が明日からやるべき事 | 業界別対策

自治体のセキュリティ対応、ガイドライン改定で何が変わる?担当者が明日からやるべき事

2026年4月の法定義務化を前に、多くの自治体で情報セキュリティポリシーの見直しが急務となっています。 しかし、膨大なガイドラインを読み解き、多忙な中で「何から手をつければいいのか」と頭を悩ませているご担当者様も多いのではないでしょうか。 結論からお伝えすると、今回のガイドライン改定で押さえるべき要点は「クラウド活用」「委託先管理」「情報分類」「攻撃を前提とした対策」の4つです。 この記事では、私たち株式会社アイ・エフ・ティが、官公庁を含む1,000件以上の脆弱性診断で培ってきた知見を基に、複雑なガイドラインのポイントを現場の実情に合わせて解説します。 読み終える頃には、改定の全体像が分かり、明日から具体的に何をすべきか、その第一歩が見つかるはずです。 この記事を読んでわかること なぜ今、ガイドラインへの対応がこれほど重要なのか? 膨大なガイドラインの中から、まず何を押さえるべきか? 明日から具体的に、どのような手順で進めていけばいいのか? なぜ今?自治体にセキュリティガイドライン対応が義務化される背景 「なぜ、これほどまでにガイドラインへの対応が求められているのか?」 その背景には、行政のデジタル化(DX)の加速と、それに伴い増大するサイバー攻撃のリスク、そして何よりも法的な義務化という大きな変化があります。 2015年、日本年金機構の情報漏えい事件をきっかけに、多くの自治体でネットワークを分離する「三層の対策(αモデル)」が導入されました。 この対策はセキュリティ強化に貢献した一方で、クラウドサービスの利用やテレワークの妨げとなり、業務効率の低下という副作用も生んでいました。 実際、約9割の自治体が旧来のαモデルのまま停滞しているというデータもあり、DX推進の足かせとなっていたのです。 出典:地方公共団体のセキュリティ対策に係る国の動きと地方公共団体の状況について(総務省) この状況を打開し、セキュリティと利便性を両立させるために、2024年10月にガイドラインは改定されました。 参考:地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン さらに決定的なのが、2024年6月に成立した改正地方自治法です。 この法律により、これまで努力義務だった情報セキュリティ基本方針の策定が、2026年4月1日から法的に義務付けられることになりました。 参考:サイバーセキュリティを確保するための方針の策定等に関する総務大臣指針について つまり、ガイドラインへの対応は、もはや「できればやった方が良い」というレベルではなく、すべての自治体にとって避けては通れない必須の取り組みとなったのです。 【解説】ガイドライン改定、4つの重要ポイント それでは、今回のガイドライン改定の核心部分である「4つの主要な変更点」を具体的に見ていきましょう。 膨大な文書の中から、特にご担当者様が押さえておくべきポイントを、専門家の視点で噛み砕いて解説します。 【要点1】守りから攻めへ!クラウド活用を前提とした「α'(アルファダッシュ)モデル」とは 今回の改定で最も大きな変化は、セキュリティモデルの考え方が根本から変わったことです。 これまでの「三層の対策」は、境界の内側を守るという「守りのセキュリティ」でした。 しかし、クラウドサービスの利用やテレワークが当たり前になった今、その考え方では対応しきれなくなっています。 そこで登場したのが「α'(アルファダッシュ)モデル」です。 これは、従来の三層分離の考え方を維持しつつも、より柔軟で積極的なクラウドサービスの活用を可能にする、新しいセキュリティモデルです。 α'モデルのポイント インターネット接続系とLGWAN接続系の間に、新たに「α'領域」という業務領域を設ける この領域では、セキュリティが確保された特定のクラウドサービス(ガバメントクラウドなど)への直接アクセスが可能になる これにより、利便性の高いクラウドツールを活用しながら、重要な情報は守るという、セキュリティと利便性の両立を目指す 難しそうに感じるかもしれませんが、要するに「危険なものはしっかり分離しつつ、安全が確認された便利なクラウドは、もっと使いやすくしましょう」という考え方です。 この新しいモデルに対応するためには、各自治体で「どのクラウドサービスを、どの業務で、どのように利用するのか」というルールを、セキュリティポリシーに明確に定めていく必要があります。 【要点2】「お任せ」はもう通用しない!厳格化される「委託先管理(サプライチェーンリスク対策)」 自治体の業務は、多くの外部事業者への委託によって成り立っています。 しかし、委託先で情報漏えい事故が起きてしまえば、その責任は自治体自身が負うことになります。 2022年に起きた尼崎市のUSBメモリ紛失事件は、委託先の管理不備が大きな社会問題に発展した記憶に新しい例です。 出典:尼崎市個人情報含むUSBメモリー紛失事案 こうした背景から、今回のガイドラインでは委託先事業者に対する管理監督責任が、これまで以上に厳しく求められるようになりました。 委託先管理の強化ポイント 契約時の厳格化: 委託契約書に、自治体が求める具体的なセキュリティ要件(技術的安全措置、組織的安全措置など)を明記することが必須に。 定期的な監査: 委託先が契約通りのセキュリティ対策を遵守しているか、定期的に監査や状況報告を求めることが求められる。 インシデント発生時の連携: 万が一、委託先で事故が発生した場合の報告義務や、共同での対応計画を事前に定めておく必要がある。 これからは、「専門の事業者だから大丈夫だろう」という性善説に基づいた「お任せ」は通用しません。 委託先の選定から契約、日々の運用管理に至るまで、サプライチェーン全体でセキュリティ水準を高めていくという強い意識が求められます。 私たちが診断を行う現場でも、委託先のシステム連携部分から重大な脆弱性が発見されるケースは少なくありません。 【要点3】情報の「仕分け」が鍵!リスクに応じた対策を行う「情報資産の分類(3A/B/C)」 すべての情報を同じレベルの厳重さで守ろうとすると、コストも手間も膨大になり、現実的ではありません。 そこで重要になるのが、取り扱う情報の重要度に応じて、守り方に強弱をつけるという考え方です。 今回のガイドラインでは、情報の機密性(漏えいした場合の影響の大きさ)に応じて、情報を以下の3つに分類することが明確に示されました。 情報資産の3分類 機密性3A: 特に秘匿性が高い情報(例:個人の病歴、DV被害者の情報など) 機密性3B: 秘匿性が高い情報(例:個人番号、未公開の入札情報など) 機密性3C: 上記以外の機密情報(例:一般的な個人情報、組織内部の情報など) そして、この分類に応じて、アクセス制御やデータの暗号化など、適用すべきセキュリティ対策のレベルを定めます。 たとえば、もっとも重要度の高い「機密性3A」の情報には、多要素認証を必須としたり、アクセスできる職員を厳しく制限したりといった、より強固な対策を行います。 この「情報の仕分け」を正しく行い、その分類に基づいて適切なアクセス制御が実装されているかを確認する作業は、まさに脆弱性診断の専門領域です。 【要点4】侵入はあり得る!被害を最小限に抑える「攻撃を前提とした対策(サイバーレジリエンス)」 「完璧な防御は存在しない」―― これが、現代のサイバーセキュリティの常識です。 どんなに厳重な対策を施しても、攻撃者がそれをかいくぐって内部に侵入してくる可能性はゼロではありません。 そこで重要になるのが、「サイバーレジリエンス」という考え方です。 これは、「サイバー攻撃による侵入や被害が発生することを前提として、いかにすばやく検知し、被害を最小限に抑え、そして復旧するか」という、しなやかな対応力のことです。 サイバーレジリエンス強化のポイント 早期検知: 不審なアクセスの兆ahoをいち早く捉えるための、ログの監視・分析体制の強化。 被害の最小化: 侵入された場合でも、重要な情報までたどり着かせないための、ネットワークの分割やアクセス権限の最小化。 迅速な復旧: 定期的なバックアップの取得と、そこからシステムを復旧させるための手順の確立・訓練。 インシデント対応計画: 実際にインシデントが発生した際の、報告体制、職員の役割分担、住民への公表手順などを定めた計画(インシデントレスポンスプラン)の策定。 これまでの対策が「入口対策」(いかに侵入させないか)に重点を置いていたとすれば、これからは「侵入された後の対策」にも同様に力を入れていく必要があるのです。 これらの対策が絵に描いた餅で終わらないためには、実際に攻撃者の視点で侵入を試みる「ペネトレーションテスト」を含む、高度な脆弱性診断が極めて有効です。 じゃあ、明日から何をすればいい?担当者のための4ステップ実践プラン ここまでガイドライン改定の4つの要点を解説してきました。 しかし、「理解はできたが、結局、何から手をつければ…」と感じている方もいらっしゃるでしょう。 このセクションでは、その疑問に答えるための具体的な「実践アクションプラン」を4つのステップでご紹介します。 ステップ1:まずは現状把握から!ガイドラインとの「差」を知る 最初に行うべきは、現状の正確な把握です。 改定されたガイドラインの項目をチェックリストにし、自組織の対策が「できているか(〇)」「できていないか(×)」を客観的に評価しましょう。 いわば、組織の健康診断です。 チェックリストの例 委託契約書に、技術的安全措置は明記されているか? 自治体機密性3Cに該当する情報資産はリストアップされているか? 管理者アカウントの多要素認証は導入済みか? この作業は、情報システム部門だけでなく、契約を担当する部署や、個人情報を管轄する部署など、関係各所を巻き込んだ横断的なチームで行うことが成功の秘訣です。 この「ギャップ分析」によって、漠然としていた課題が「やるべきことのリスト」として明確になります。 ステップ2:計画を立て、関係者を巻き込む ギャップが見えたら、次はそれを埋めるための計画を立てます。 すべての課題に一度に取り組むのは現実的ではありません。 洗い出したリストを、「リスクの大きさ」と「対応の緊急性」の2つの軸で整理し、優先順位をつけましょう。 たとえば、法定期限(2026年4月)のある基本方針の見直しや、放置すると重大なインシデントに繋がりかねない脆弱性は、最優先で取り組むべきです。 この計画をもとに、首長や財政部門など、予算や人員の決定権を持つ関係者との調整を行います。 その際、「法的に定められた義務であること」や「放置した場合の具体的なリスク」を明確に伝えることが、合意形成の鍵です。 ステップ3:難しいときは専門家を頼るのも一つの方法 「計画は立てたが、技術的にどう進めればいいか分からない」「自組織の担当者だけでは手が足りない」―― そうした壁に突き当たった時は、外部の専門家の力を借りることがもっとも確実です。 ポリシー改訂支援コンサルティング システムの脆弱性診断・監査(私たちIFTもご提供しています) 職員向けのセキュリティ研修 特に、ガイドライン対応の根幹となる脆弱性診断は、専門的な知見がなければ正確な実施が困難です。 また、第三者機関による診断レポートは、セキュリティ対策の必要性を庁内で説明し、予算を獲得するための強力な根拠となります。 最近では、国や都道府県が提供する支援サービスや補助金制度も充実しています。「自前主義」にこだわらず、使えるリソースは積極的に活用しましょう。 私たち株式会社アイ・エフ・ティでは、官公庁を含む1,000件以上の実績を持つ専門家が、組織の状況に合わせた最適な脆弱性診断サービスをご提供しています。 ステップ4:予算や人員が限られている場合はどう考える? 特に小規模な自治体では、「担当者は自分ひとりだけ」「追加予算の見込みがない」といった声も少なくありません。 しかし、諦める必要はありません。 リソースが限られているからこそ、戦略的な考え方が重要になります。 リスクベースでの段階的実施: すべてを完璧にやろうとせず、ステップ1で特定した「リスクが最も高い部分」にリソースを集中させます。たとえば、まずは住民情報システムや公開サーバーなど、もっとも狙われやすく影響の大きい部分から診断に着手するのが現実的です。 共同利用と相互扶助: 近隣の自治体と合同で研修を実施してコストを分担したり、都道府県が提供するログ監視サービス(自治体SOC)を共同で利用したりと、連携することで負担を軽減できます。 「追い風」の活用: 今回のガイドライン改定と法的義務化は、これまで予算が付きにくかったセキュリティ対策の必要性を、組織内で説明する絶好の「追い風」です。この機会を最大限に活用し、必要な投資を訴えましょう。 予算が限られていても、例えば「まずは低コストのツール診断で全体を把握し、重大なリスクが見つかった箇所だけ手動診断を追加する」といった柔軟な進め方もできます。 重要なのは、「できない理由」を数えるのではなく、「限られたリソースで何ができるか」を考え、一歩でも前に進めることです。 まとめ:計画的なガイドライン対応で、安全な自治体DXを実現しよう ここまで、最新ガイドラインへの対応について、4つの改定ポイントと具体的なアクションプランを解説してきました。 今回の改定は、単に守りを固めるだけでなく、安全な形で行政のDXを加速させるための土台作りと捉えることができます。 この記事のまとめ 改定の4つの要点: クラウド活用(α'モデル)、委託先管理、情報分類(3A/B/C)、攻撃前提の対策 最初の一歩: 現状把握とギャップ分析 重要な考え方: リスクに応じた優先順位付けと段階的な実施 セキュリティ対策は、住民が安心してサービスを利用するための大前提であり、自治体への信頼そのものです。 とはいえ、 「多忙な業務の中で、専門的な対応までは手が回らない」 「何から手をつければいいのか、専門家の客観的なアドバイスが欲しい」 といったお悩みもあるのではないでしょうか。 私たち株式会社アイ・エフ・ティは、単に脆弱性を指摘するだけの診断業者ではありません。 お客様の状況を深く理解し、ゴールまで伴走する「信頼できるパートナー」でありたいと考えています。 1,000件以上の実績: 官公庁から大手企業まで、豊富な実績が信頼の証です。 高品質と納得の価格: 高度な手動診断と効率的なツール診断を組み合わせ、お客様の予算に合わせた最適なプランをご提案します。 充実のサポート体制: 診断後の報告会や改善策のご提案、再診断まで、専任のエンジニアが責任を持ってフォローします。 まずはヒアリングさせていただき、今やるべきことを一緒に整理するところからお手伝いします。 ガイドライン対応という重要なミッションを成功させるため、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。

工場システムのセキュリティ対策ガイドラインを分かり易く解説!3つのステップで実践へ | 脆弱性診断とは

工場システムのセキュリティ対策ガイドラインを分かり易く解説!3つのステップで実践へ

近年、工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)化が急速に進み、生産性の飛躍的な向上や効率化が期待されています。 しかしその一方で、これまで閉じられた環境にあった工場の制御システムがインターネットや社内ITシステムと繋がることで、新たなサイバー攻撃の脅威に晒されるリスクも高まっています。 「うちの工場もそろそろ対策を考えなければ…」 と思いつつも、経済産業省から出された『セキュリティ対策ガイドライン』は100ページ超え。 専門用語も多くてどこから手をつければ良いのか、と悩んでいる方も多いと思います。 専門的な知識がないと、どこが本当に重要で、何を優先すべきか判断するのは難しいですよね。 そこでこの記事では、脆弱性診断の専門家(株式会社アイ・エフ・ティ)が、その難解なガイドラインを中小工場の視点で「超訳」し、「最重要ポイントは何か」「なぜそれが重要で、どう実践すべきか」を、具体的な優先順位と根拠まで含めて徹底解説します。 この記事を読んでわかること 工場セキュリティガイドラインの理解と重要性 自社で取り組むべき優先順位 工場特有のセキュリティ対策ポイント 継続的な対策と専門家活用のヒント この記事を読めば、ガイドラインの核心を深く理解し、自社で取り組むべきことの優先順位と、その理由を明確にできるはずです! 工場のセキュリティガイドライン遵守は今や必須!その背景とは? 経済産業省が策定した「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」(以下、ガイドライン)は、工場のサイバーセキュリティ対策を進める上で、企業が自主的に取り組むための共通の指針を示すものです。 まずは、このガイドラインが生まれた背景や目的、そしてその全体像を簡単に見ていきましょう。 なぜガイドラインは作られた?DX化によるリスクとその目的 工場のIoT化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、生産性が向上する一方で、 これまで閉じられていた工場の制御システム(OT)がインターネットや社内ITシステムと繋がるようになりました。 これは、サイバー攻撃の新たな標的となり得ることを意味し、実際に国内外で工場が被害に遭う事例も増えています。 このような背景から、経済産業省は2022年11月に本ガイドラインを策定しました。 その目的は、企業が自主的にセキュリティ対策を進めるための「共通の指針」を示し、産業界全体のセキュリティレベルを向上させること、そして安全なDX推進を支援することです。 ガイドラインの全体像と3つのステップを理解しよう ガイドラインの中心は、「セキュリティ対策企画・導入の進め方」で、対策を以下の3つのステップで進めることを推奨しています。 ステップ1:現状把握とリスク評価(準備):自社の状況を整理 ステップ2:対策の立案(計画):リスク評価に基づき、具体的なセキュリティ対策の計画 ステップ3:対策の実行と継続的改善(実行・改善):計画を実行し、PDCAサイクルで見直し また、工場内をセキュリティレベルに応じて区分けする「ゾーン」管理や、実践的な「チェックリスト」「調達仕様書テンプレート」といったツールも提供されており、企業が具体的なセキュリテイ対策を進めるためのヒントが詰まっています! サプライチェーンを守る!今、工場にガイドライン対応が必須なワケ DX化によるリスク増大に加え、サプライチェーン全体でのセキュリティ確保が強く求められています。 万が一、自社がサイバー攻撃の起点となって取引先にまで被害が及んでしまえば、長年築き上げてきた信用も一瞬で失いかねませんよね。 実際に、大手企業を中心に取引先へ一定水準以上のセキュリティ対策を求め、監査で確認する動きが加速しています。 ガイドラインへの対応は、こうした要求に応え、自社の信頼性を示す上で重要です。 国も中小企業の取り組みを後押ししており、2025年4月には中小企業向けの解説書「工場セキュリティの重要性と始め方 」も公開されました。 ガイドラインへの対応は、自社を守るだけでなく、取引先との信頼関係を維持し、供給責任を果たすための重要な取り組みなのです。 参考:工場セキュリティの重要性と始め方 (経済産業省) 工場セキュリティガイドラインの基本と3つのステップ ここからは、いよいよ「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン Ver1.0」の本編解説です。 難解に思えるガイドラインも、その骨組みと大切なポイントさえ押さえれば、中小工場の皆さんがセキュリティ対策を進める上で、きっと大きな助けとなるはずです。 私たち専門家の視点から、「超訳」し、具体的なアクションに繋がるよう、分かりやすく解説していきます。 【ステップ0】まず理解すべき!ガイドラインを読み解くための基本原則 このガイドラインは、工場のDX化に伴い高まるリスクに対応するために策定されました。 ここで言うリスクとは、情報システムなどが存在する目に見えない「サイバー空間」と、実際に設備や機械が稼働している現実世界の「フィジカル空間」、この両方がより密接に繋がることで生じる、サイバー・フィジカル両面のリスクを指します。 ガイドラインは、企業がこれら両面のリスクに対して自主的にセキュリティ対策を進める際の「指針」となることを目指しています。 その対象範囲は、工場の頭脳とも言えるOTシステムから、日々の稼働を支える空調や電源といった付帯設備に至るまで、まさに「工場敷地内のモノすべて」を網羅しています。 想定読者は、経営層から現場のIT/OTエンジニア、購買担当者まで幅広く、各々の役割に応じた対応が示されています。 工場セキュリティでは、工場ならではの、こんな視点が大切になってきます。 BC(Business Continuity:事業継続性) S(Safety:安全性) Q(Quality:品質) D(Delivery:納期) C(Cost:コスト) 基本構造は「経営層・工場側・IT部門の三位一体」での取り組みを前提とし、「3ステップ(準備→立案→実行・運用)×PDCAサイクル」で継続的な改善を目指します。 この取り組みを実りあるものにするためには、特に以下の3点が重要になると、私たち専門家は考えています。 まずはここから!ITとOTの「文化の違い」を理解する オフィス環境のITセキュリティと、工場現場のOTセキュリティでは、優先すべきことや許容されるリスクが違うことを認識します。例えば、ITでは機密性が重視される一方、OTではシステムの安定稼働(可用性)が最優先されることが多いのです。 ガイドラインは「答え」ではなく「考える道具」と捉えること ガイドラインに書かれていることを全てそのまま実施することが目的ではありません。 自社の規模、業種、取り扱う製品や技術、現在のリスク状況などを踏まえ、ガイドラインを「自社にとって何が最適か」を考えるためのフレームワークとして主体的に活用する姿勢が大切です。 セキュリティは「コスト」ではなく「戦略的投資」と認識すること セキュリティ対策には、もちろん費用がかかります。しかしそれを単なる「コスト」と捉えるのではなく、サイバー攻撃による甚大な被害(生産停止、信用失墜、賠償責任など)を未然に防ぎ、事業を継続し、 さらには取引先からの信頼を得て競争力を高めるための「戦略的投資」であるという認識を経営層が持つ必要があります。 これらの基本原則と重要ポイントを念頭に置くことで、ガイドラインが示す3つのステップを、より自社の実情に合わせて効果的に進めていくことができるはずです。 【ステップ1】工場の「弱点」と「守るべきもの」を見つける ガイドラインが示すセキュリティ対策の最初のステップは、 「自社の工場が今どのような状況にあり、何を保護すべきで、どのような危険に直面しているのか」 を正確に把握することから始まります。 ステップ1では、以下の7つのポイントで自社工場を徹底的に「見える化」していきます。 ステップの主題 問いかけ / 具体的なテーマ 具体的な進め方 1-1. ゴール設定 何を目指し、どんなルールを守るべきか? 会社の目標とセキュリティリスクを結びつけます。法律や業界ルール、取引先からの要求など、守るべき外部の決まり事もハッキリさせます。 1-2. 仕事の流れを知る 工場内の「業務プロセス」を見える化 工場の中で、モノや情報がどう動き、どんな順番で仕事が進んでいるか(例:調達→製造→検査→出荷)を洗い出し、図などで誰にでも分かるようにします。 1-3. 業務の優先順位付け 「止まったら困る仕事」はどれ? 洗い出した仕事がもし止まったら、会社全体にどれくらい影響が出るか(安全・品質・納期・コスト面で)を考え、重要度に応じて順番をつけます。 1-4. 守るべきモノをリストアップ 大切な「資産」は何か? 仕事で使う大事な「情報」(技術情報など)、「モノ」(重要設備など)、「人」(専門スキルを持つ人)を具体的に全部書き出します。IT/OT資産の棚卸しもここで行います。(優先度:高) 1-5. 資産の優先順位付け 「絶対に守りたいもの」はどれ? 1-4で書き出した「守るべきモノ」がもし攻撃されたり壊れたりしたら、会社がどれくらい困るかを評価し、特に大事なものから順番をつけます。(優先度:高) 1-6. 工場をエリア分け 場所・仕事・資産を関連付ける 工場の中を、機能やセキュリティの重要度に合わせていくつかの区画(ゾーン)に分けます。そして、どのエリアでどんな仕事をして、何を扱っている(守るべきモノがある)のかを紐付けます。(優先度:高) 1-7. エリアごとの危険予測 どんな脅威が、どんな影響をもたらすか? 分けたエリアごとに、どんな危険(ランサムウェア、不正アクセス、故障、災害など)が潜んでいるか、もしそれが起きたらどんな被害が出るかを整理し、その深刻さを評価します。(優先度:高) では、なぜ最初にこのステップ1「現状把握とリスク評価」を確実に行う必要があるのでしょうか? 私たち専門家の視点から見ると、主に3つの理由があります。 守るべき対象がはハッキリとし、対策の焦点を絞れる 本当に危険な箇所が見え、効果的な優先順位がつけられる 対策の必要性が納得でき、経営視点で合理的な判断が下せる これらが曖昧なままでは、どんな対策も的外れになったり、効果が半減したりしかねません。 だからこそステップ1は、効果的なセキュリティ対策を行うための、「土台作り」と言えるのです。 【ステップ2】システムと物理の両側面から対策計画を立てる ステップ1で自社の現状とリスクが確認できたら、具体的な対策を計画する「セキュリティ対策の立案」のステップへと進みます。 ここでは、システム構成面(サイバー)と物理設備面(フィジカル)の両面から、工場ならではの事情を踏まえ、、実効性の高い計画を立てることが求められます。 ステップ2では、主に以下の2つの大きな方針と具体的なアクションプランを策定します。 ステップの主題 具体的な進め方 2-1. セキュリティ対策方針の策定 ステップ1で把握した工場の現状を基に、工場システム全体のセキュリティ対策における基本的な考え方、何を優先して守るか、そしてどこまでのレベルを目指すのかを決定します。 具体的に「何を最優先で守るのか」「どの脅威に対して、どこまで備えるのか」という明確な目標を設定します。これは、業務の重要度や脅威の深刻さを考え合わせて、対策の度合いを決めていきます。 2-2. 想定脅威に対するセキュリティ対策の決定 ステップ1で特定したそれぞれの想定脅威に対し、システム面・物理面の両方から、具体的な防御策や対応策を個別に検討し、計画に落とし込みます。 特定された脅威に対して具体的な対策を紐付けていきます。 対策は、大きく「システム構成面」と「物理面」、そして「日常的な運用管理」の観点から検討します。 システム構成面でのセキュリテイ対策 ネットワークを安全に区切り(ゾーン化)、どこからどこへアクセスできるかを適切にコントロールします。 サーバーや端末、制御機器などのセキュリティ設定を強化し、使用するソフトウェアやサービスが安全性を確保、もし問題が起きた時の対応手順も確立しておきます。 不正な通信がないか監視したり、ログ(記録)の管理も大切です。 物理面でのセキュリテイ対策 建屋や設備が自然災害(地震、水害など)に耐えられるようにし、安定して動き続けられるようにします。 重要な機器は盗難や破壊から守ります。 不正なモノの持ち出し(例えばUSBメモリなど)・持ち込みを防ぎ、重要なエリアへは物理的に立ち入りを厳しく管理します。 日常的な運用・管理に関わるセキュリテイ対策 導入したセキュリティ対策が常に有効に機能しているか定期的に確認し、システムの動きを監視します。 設定を変更した場合はきちんと記録を残し、許可されていないデバイス(私物のUSBメモリなど)の利用を禁止するといったルールを徹底し、日々の運用の中でセキュリティを維持していきます。 これらの具体的な対策をより実効性のあるものにするため、私たちIFTは、対策を考える上で特に次の3つの視点が鍵になると考えています。 「脅威起点」と「資産価値起点」の両方から考える 「何から守るか(脅威起点)」と「何を重点的に守るか(資産価値起点)」の二つの視点で対策を検討することで、バランス良く効果的な計画が生まれます。 中小工場こそ「基本の徹底」 高度で高価な対策の前に、まずはパスワードの管理や不要な接続の遮断、ソフトウェアを最新の状態に保つといった「基本対策」を徹底するだけで、リスクは大幅に減らせます。 物理セキュリティはサイバーセキュリティの「最後の砦」 どんなにサイバー対策を固めても、物理的に侵入されてしまえば意味がありません。特に工場では、サイバーとフィジカル両面での多層防御が不可欠です。 【ステップ3】対策の実行と運用、一度だけで終わらせないために ステップ3では、いよいよ立案した対策を実行に移し、日々の運用へと落とし込んでいきます。 しかし、セキュリティ対策は一度導入したら「はい、おしまい!」というものではありません。 時代の変化や次々と現れる新たな脅威に合わせて、継続的に見直し、改善し続けることが何よりも大切なのです。 ステップ3で特に重要な活動は、大きく3つに分けられます。 主要な活動 具体的な取り組み内容 1. 日々の運用と、もしもの時への備え 普段からセキュリティを意識した運用を心がけ、万が一の事態(インシデント)にはOODAループ(※)ですぐに対応します。具体的には、ログの監視、インシデント発生時の対応手順の確認、アカウントやシステム構成の適切な管理、従業員への情報共有や教育などを行います。 2. 対策を常に最新の状態に保つ活動 一度導入した対策が古くならないよう、定期的に効果をチェックし、必要なら改善します。新たな弱点(脆弱性)の情報収集や評価、修正プログラム(パッチ)の適用も計画的に行いましょう。また、いざという時に備え、模擬訓練で対応力を高めておくことも大切です。 3. サプライチェーン全体の安全確保 自社だけでなく、取引先も含めた全体のセキュリティレベル向上を目指します。そのため、取引先に自社のセキュリティ基準を伝え、状況を確認し合うことが重要です。特に、VPNなど外部との接続部分は攻撃の入口になりやすいため、弱点管理を徹底しましょう。 PDCAサイクル: 「計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)」という流れで、中長期的な視点からじっくりとセキュリティ体制全体を改善していくための枠組み。 OODAループ: 「監視・観察(Observe)→状況判断(Orient)→意思決定(Decide)→行動(Act)」という流れで、日々刻々と変化する状況や、突発的な脅威・インシデントに対して、素早く柔軟に対応するための思考・行動プロセス。 これらの活動を効果的に継続していくために、私たちIFTは以下の点を特に重要だと考えています。 PDCAとOODA、それぞれの役割を理解し、連携させましょう 中長期的な改善(PDCA)と、日々の脅威への迅速な対応(OODA)。この二つをバランス良く回すことが、「生きた対策」の鍵です。 中小工場におけるインシデント対応の現実的な解決策 専門チームがなくても、発生時の責任者・連絡先・初動手順を明確にし周知するだけで、被害を最小限に抑える第一歩となります。 サプライチェーン対策は「できる範囲から」始める 全ての取引先に高いレベルを求めるのは現実的ではありません。まず影響の大きい重要な取引先から、セキュリティの相互理解を深めましょう。 ガイドラインを実践するために!組織体制と便利ツールの活用法 大切なのは、ガイドラインの3つのステップを理解することではなく、それらを工場全体で着実に実行し、継続していくための「推進力」です。 ここでは、ステップ1~3で学んだことを実際の行動に移し、組織に根付かせるための「組織体制のポイント」と、その助けとなるガイドライン付属の「便利ツールの使い方」を解説します。 全社で取り組む!セキュリティ対策を成功させる組織体制の作り方 ガイドラインを工場全体で取り組むためには、しっかりとした土台、すなわち「組織体制」が不可欠です。 特定の誰かや一部門に任せるのではなく、関係者全員がそれぞれの役割を担い、連携しなくてはいけません。 役割分担と部門間の連携を明確に 各部門の得意分野を活かした役割分担を明確にする。 部門間で定期的に情報共有し、課題を協議できる仕組みを設ける。 経営層の強いコミットメントを示す 経営層がセキュリティ対策の重要性を明確に方針として示す。 必要なリソース(予算・人員)を確保することを宣言する。 経営トップのリーダーシップにより、全社的な協力体制を構築する。 日々の実践と万が一への備えを怠らない セキュリティインシデント発生時の「緊急対応フロー」を具体的に定める。 緊急対応フローの習熟度を高めるための訓練を実施する。 全従業員への継続的なセキュリティ教育で意識と知識を浸透させる。 外部業者とは契約段階からセキュリティ要件を明確にする。 もっと具体的に!ガイドライン付属資料の上手な使い方 ガイドラインには、本文の解説を補足し、より具体的な理解や実践を助けるための豊富な情報が付録として提供されています。 ここでは、それぞれの付録が「どんな時に」「どのように役立つのか」を簡単にご紹介します。 こんな時に役立つ どの付録を見ればいいか(付録名と内容) ガイドラインに出てくる専門用語や略語の意味が分からない 付録A『用語/略語』 ガイドライン内の専門用語や略語を解説。本文読解中の疑問解消や正確な内容理解に。 工場セキュリティに関して、法律や社会的な要求を知りたい 付録B『工場システムを取り巻く社会的セキュリティ要件』 工場システムに求められる法規制、標準規格、市場・取引先からの要求事項などを整理。自社の対策検討時に守るべき外部ルール把握の基礎情報に。 自社が目指すべきセキュリティ対策のレベル感を知りたい 付録C『関係文書におけるセキュリティ対策レベルの考え方』 代表的な基準での「対策レベル」の考え方を紹介。自社が目指す対策の強さや度合い設定の参考に。 特定のテーマについて、もっと詳しく知りたい情報がある 付録D『関連/参考資料』 国内外の関連規格、他のガイドライン、調査レポートなどをリストアップ。専門情報や他社事例を探す手がかりに。 自社のセキュリティ対策状況を具体的に自分でチェックしたい 付録E『チェックリスト』 35項目以上の必須対策項目について、自社の達成度を段階評価できる具体的なリスト。現状把握のセルフチェックから継続的な改善活動まで幅広く活用可能 システムや機器を買う時に、どんなセキュリティ要件を業者に伝えればいいか知りたい 付録F『調達仕様書テンプレート(記載例)』 製品・サービス調達時に業者へ求めるべきセキュリティ要件の雛形と記載例。RFPや契約に活用することで、客観的な業者選定やトラブル防止に。 ガイドラインを読んだ後に注意してほしいこと 経済産業省のガイドラインは工場セキュリティ対策の「共通の指針」ですが、活用法を間違えると、せっかくの努力が水の泡になることも。 ここでは、特に中小工場が陥りがちな点と、それを回避するための対策を解説します。 「読んだだけ」で満足していませんか? 一度は目を通したものの、「難しくて分からない」「どこから手をつければ…」と行動に移せないのはよくある話。時間や専門人材不足も背景にあるかもしれません。 まずは、自社の業務やリスクを「見える化」し、ガイドラインを自社に置き換えて理解。 その上で、いきなり大きなことをやろうとせず、具体的な行動計画を小さな一歩から立てて、確実に実行していきましょう。 「全部一気に」やろうとしていませんか? 「あれもこれもやらなければ」と焦り、リソースが分散して中途半端になったり、担当者が疲弊してしまったりする状況です。 特に中小工場では、限られたリソースの中で効果を出す必要があるため、この傾向に陥りやすいでしょう。 大切なのは、「選択と集中」の考え方で、まずはもっとも重要で効果が高いと思われる対策から段階的に導入していきましょう。 「一度導入」で終わりと思っていませんか? セキュリティシステムの導入やルール整備で満足し、運用や見直しを怠ると、対策は時間と共に陳腐化してしまいます。 サイバー攻撃は巧妙化し、新たな脆弱性も日々発見されます。 PDCAサイクルで継続的に改善し、日々の運用やインシデント発生時にはOODAループで即座に対応。 定期的な見直しや情報収集も重要です。 「常に変化に対応し続ける」という意識を持つことが、持続可能なセキュリティ体制の構築に繋がります。 工場セキュリティ担当者の疑問を解決!ガイドラインQ&A ここでは、中小工場の担当者や経営者の皆様が特に疑問に思われるであろうポイントについて、私たち株式会社アイ・エフ・ティがセキュリティの専門家の視点からお答えします。 Q1. 工場のOTセキュリティ、ITとは何が違う?特に注意すべき点は? A. OT環境は「止めない」が最優先。だから、オフィスとは違い、古いシステム、パッチ困難な機器、物理アクセス箇所といった特有の弱点への対策と診断が特に重要です。 特に以下の点には注意して下さい。 可用性最優先: 生産停止が莫大な損失に直結するため、ITのように頻繁なパッチ適用や再起動は難しい。 レガシーシステムの存在: メーカーサポート切れのOSや制御機器が多く、新たな脆弱性への対応が困難。 リアルタイム性の要求: セキュリティ対策が工場のシステムのパフォーマンスに影響を与えない配慮が必要。 物理的なアクセス: 制御機器が工場現場に剥き出しで設置されていることも多く、不正な操作や誤った操作によるリスクも考慮すべき。 専門人材の不足: ITとOT、両方のセキュリティ知識を併せ持つ人材は、残念ながらまだ少ないのが現状です。 こうした特有の課題に対しては、OT環境に精通した専門家による診断は不可欠と言えます。 Q2. 「スマート工場化」を進めたいが、セキュリティ面で何から準備すべき? A. スマート工場化は新たな接続点やデータ連携を生み出すため、初期段階での徹底した脆弱性診断とリスクアセスメントを強く推奨します。 以下のステップで準備を進めることをお勧めします。 現状の見える化: 工場内のIT/OT資産とネットワーク構成を正確に把握する。 導入システムの明確化: 導入する新技術と既存システムがどこでどのように連携するのかを特定する。 リスクアセスメント: 新たな接続点でのセキュリティリスクを洗い出し評価する。 セキュリティ要件の定義: リスク評価に基づき、満たすべき対策要件を明確にする。 ガイドライン参照: 自社要件に漏れがないか、より強化すべき点がないかを確認する。 新しいシステムを導入する際の脆弱性や、既存システムとの連携部分に潜むリスクを早い段階で発見するためにも、計画段階からの診断が非常に効果的です。 Q3. 取引先とのセキュリティ連携、どんな点に気をつければ良い? A. サプライチェーン全体のセキュリティを確保するため、外部接続ポイントや委託先とのデータ連携における脆弱性診断を重視します。 以下のポイントに気をつけましょう 契約での要件明確化: 情報セキュリティに関する具体的な条項(情報範囲、利用禁止、報告義務など)を盛り込む。 アクセス権限の最小化: 業務上必要な最小限にとどめ、厳格に管理・棚卸しする。 役割と責任範囲の明確化: インシデント発生時の連携・責任を事前に明確に合意する。 定期的なコミュニケーション: セキュリティに関する情報交換や、必要に応じた監査を行う。 委託先の選定基準: コストだけでなく、セキュリティ体制や実績も評価項目とする。 外部パートナーとの接点は攻撃の入り口となりやすいため、共にセキュリティの診断と評価を第三者を用いて検証するようにしましょう。 実はガイドライン対応だけでは不十分?見えない脆弱性のリスク ここまでお話ししてきた「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」への対応は、工場に共通して求められる「セキュリティ対策のあるべき姿」とも言えるものです。 しかし、サイバー環境は常に変化し、工場の状況も様々です。 自社だけでは専門知識の限界から、重要な弱点(脆弱性)を見落とすリスクも否定できません。 つまり、ガイドライン対応は重要な第一歩ですが、それだけで工場を守りきることは困難です。 変化する脅威に対応し、本当のセキュリティを確保するには、専門的な視点を取り入れ、継続的に体制を見直すことが欠かせません。 私たちIFTが提供する脆弱性診断は、まさにそのような、工場に潜む隠れたリスクを、セキュリティ専門家の目で徹底的に洗い出し、具体的な対策をご支援します。 こんな方は一度ご相談ください 「ガイドラインを読んだけれど、難しくて自社だけで対応できるか正直不安…」 「結局、うちの工場では何から手をつければ良いのか、専門家から具体的なアドバイスやサポートが欲しい」 「ガイドラインに沿って対策を進めているつもりだけど、うちの工場特有の弱点や見落としがないか心配…」 「取引先にも、そして何より自社の従業員にも、安心して働ける盤石なセキュリティ環境を整えたい」 「スマート工場化を進めたいけれど、どんなセキュリティリスクがあって、どう備えればいいのか分からない」 もし、このような課題をお持ちでしたら、私たちIFTにご相談ください。 IFTの脆弱性診断は、「できる限りリーズナブルな価格」なので、高品質なサービスを継続的に続けられます。 ガイドライン対応に関する疑問点の解消から、お客様の工場に潜む「見えない穴」の特定、そして本当に安心できるセキュリティ体制の構築まで、専門家の知見と経験をもってサポートいたします。 まとめ:継続的な対策のために、専門家のサポートをおすすめします ここまで、経済産業省の工場セキュリティガイドラインの重要ポイントと、その3つのステップに沿った実践方法について、具体的な進め方や注意点を交えながら解説してきました。 大切なのは、まずこのガイドラインがDX時代の工場を守るための「基本的な指針」であると理解し、その上で「現状把握とリスク評価(ステップ1)」から着実にステップを踏むことです。 この記事のまとめ ガイドラインの3ステップ(現状把握、対策立案、実行・改善)の着実な実践 ITとOTの特性理解と経営層の関与の重要性 セキュリティ対策の継続的な見直し(PDCA/OODAの活用) 専門家による客観的なリスク評価の有効性 しかし、ガイドラインへの対応はあくまで第一歩であり、それだけでは見落としがちな工場特有の「セキュリティの穴」が存在する可能性も否定できません。 「自社だけでは不安…」「もっと具体的なアドバイスが欲しい」と感じたら、ぜひ私たちIFTにご相談ください。 1000件以上の診断実績で培った専門知識と経験で、安心・安全な工場運営を実現するための、具体的な対策をご提案します。 まずは無料相談からお気軽にお問い合わせください。

OWASP TOP10 とは?対策必須のリスクと費用対効果を最大化する対策 | サイバー攻撃

OWASP TOP10 とは?対策必須のリスクと費用対効果を最大化する対策

「うちのWebシステムのセキュリティ、本当にこれで大丈夫なのかな…?」 「Webアプリのセキュリティ対策、何から手をつければいいんだろう…?」 Webアプリケーションの開発や運用に携わっていると、こんな不安を感じることはありませんか? セキュリティ対策は、今や避けて通れない重要な課題ですよね。 そんなセキュリティ対策の「羅針盤」となるのが、世界の専門家たちが示す重大リスクリスト「OWASP Top 10」です。 この記事では、最新版(2021年)のOWASP Top 10で指摘されている10個のリスクとその対策のポイント、そして「なぜ対策がこれほど重要なのか?」という理由を、分かりやすく解説していきます。 さらに、ツールを使ったセルフチェックから専門家への依頼まで、あなたの会社に合った、費用対効果の高い対策アプローチを見つけるためのヒントもお伝えします。 この記事を読めば、こんな疑問が解決します! OWASP Top 10とは何か、その基本的な意味 最新版(2021年版)で指摘される10個のリスクとその具体的な内容 なぜOWASP Top 10への対策がビジネスにとって不可欠なのか 費用対効果の高い、実践的な対策方法(ツールの活用から専門家への依頼まで) OWASP Top 10とは? まず、「OWASP Top 10」がどのようなものなのか、その背景から見ていきましょう。 そもそもOWASPとは OWASP(オワスプ:Open Web Application Security Project)は、Webアプリケーションのセキュリティ向上を目指す、世界的な非営利コミュニティです。 世界中のセキュリティ専門家がボランティアで参加し、セキュリティに関するガイドラインやツール、脆弱性に関する情報などを無償で公開しています。 特定の企業や製品に偏らない、中立的な立場からの情報発信が、その高い信頼性の源となっています。 OWASP公式サイト OWASP Top 10:その役割と位置づけ OWASP Top 10は、OWASPが定期的に発表している、Webアプリケーションにおける最も重大なセキュリティリスクのトップ10リストです。 実際の攻撃データや専門家の知見に基づいて選定され、通常3〜5年ごとに更新されています(現在の最新版は2021年版です)。 OWASP Top 10 - 2021 このリストは、 開発者やセキュリティ担当者に、特に危険な脆弱性を知らせる 数あるリスクの中から、対策の優先順位をつける手助けとなる 世界中の企業や組織が参考にするセキュリティ基準(事実上の標準)として機能する といった役割を担っています。 ただし、注意点として、OWASPは対象領域ごとに様々なTop 10リストを作成・公開しています。 例えば、 スマートフォンアプリ向けの「OWASP Mobile Top 10」(2024年版が最新) OWASP Mobile Top10 - 2021 APIのセキュリティに特化した「OWASP API Security Top 10」(2023年版が最新) OWASP Top 10 API Security Risks - 2023 大規模言語モデル(LLM)向けの「OWASP Top 10 for LLM Applications」(2025年版が最新) OWASP Top 10 for LLM Applications - 2025 などがあります。 このように、それぞれ対象や更新年が異なるので、情報を参照する際はどのリストかを確認することが大切です。 この記事では、その中でも最も基本的かつ広く参照されている「Webアプリケーション版」のOWASP Top 10(2021年版)に焦点を当てて解説を進めます。 Webセキュリティに関わるなら、まず押さえておくべき内容と言えるでしょう。 【詳説】OWASP Top 10 2021 リスク一覧 最新版「OWASP Top 10 2021」で指摘されている10個のリスクは以下の通りです。 A01: アクセス制御の不備 (Broken Access Control) A02: 暗号化の失敗 (Cryptographic Failures) A03: インジェクション (Injection) A04: 安全でない設計 (Insecure Design) A05: セキュリティ設定のミス (Security Misconfiguration) A06: 脆弱で古くなったコンポーネント (Vulnerable and Outdated Components) A07: 識別と認証の失敗 (Identification and Authentication Failures) A08: ソフトウェアとデータの整合性の不具合 (Software and Data Integrity Failures) A09: セキュリティログと監視の失敗 (Security Logging and Monitoring Failures) A10: サーバーサイドリクエストフォージェリ (Server-Side Request Forgery - SSRF) それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。 A01: アクセス制御の不備 (Broken Access Control) これは、ユーザーごとに許可された範囲を超えて、他のユーザーの情報や管理者向けの機能などにアクセスできてしまう問題のことです。 情報漏洩や不正なデータ改ざん、最悪の場合はシステム乗っ取りにまで直結する可能性があり、2021年版では最も深刻なリスクと位置づけられています。 主な対策のポイント アクセス権限のチェックは、必ずサーバーサイド(バックエンド)で実施する。 「原則として全て禁止し、許可された操作のみを可能にする(デフォルト拒否)」という考え方を徹底する。 役割に基づいてアクセス権を管理する「ロールベースアクセス制御(RBAC)」などを適切に実装する。 A02: 暗号化の失敗 (Cryptographic Failures) パスワードやクレジットカード情報といった機密データを守るための暗号化処理や、暗号化に使う「鍵」の管理に不備がある状態を指します。 これが原因で、通信内容が盗聴されたり、保存されている機密情報が大規模に漏洩したりする危険があり、企業の信用を大きく損なってしまいます。 主な対策のポイント 常に最新の安全な暗号技術(例:AES-256)やプロトコル(例:TLS 1.2以上)を使用する。 暗号鍵は厳重に管理し、定期的に更新するルールを設ける。 そもそも、不要な機密データは極力保存しない方針を検討する。 A03: インジェクション (Injection) ユーザーからの入力データ(検索キーワードやフォーム入力など)に、悪意のある命令(データベースを操作するSQL文など)が「注入(インジェクション)」され、システムが不正に操作されてしまう攻撃の総称です(クロスサイトスクリプティング(XSS)もここに含まれます)。 データベース内の情報を盗まれたり、改ざん・破壊されたりするだけでなく、サーバー自体が乗っ取られるなど、極めて深刻な被害を招いてしまいます。 主な対策のポイント 外部から送られてくる入力値は決して信用せず、サーバーサイドで厳密に検証(バリデーション)する。 データベース操作(SQL実行)には、プリペアドステートメントやORMなど、安全な方法を用いる。 Webページにデータを表示する際には、HTMLタグとして解釈されないよう適切にエスケープ処理を行う。 A04: 安全でない設計 (Insecure Design) これは、個々のプログラムの書き方(実装)の問題ではなく、アプリケーションの設計段階でのセキュリティ考慮不足が原因となるリスクです。 設計段階での見落としは、後から修正するのが難しく、コストもかさみがちです。 また、他の脆弱性を引き起こす原因にもなります。 主な対策のポイント 開発の初期段階(要件定義や設計フェーズ)からセキュリティを意識し、組み込むアプローチ(シフトレフト)を実践する。 「脅威モデリング」を実施し、システムに潜む可能性のあるリスクを洗い出す。 「最小権限の原則」など、セキュリティを高める設計原則を適用する。 A05: セキュリティ設定のミス (Security Misconfiguration) Webサーバーやデータベース、クラウドサービスなどの設定が不適切だったり、危険な初期設定(デフォルトパスワードなど)のまま放置されたりすることで生じる脆弱性です。 これらが、不正アクセスや情報漏洩、システム改ざんの直接的な「入口」となってしまうことがあります。 主な対策のポイント 不要な機能、サービス、ポートなどは無効化し、デフォルトのパスワードは必ず変更する。 各種設定項目(HTTPヘッダー、アクセス権限など)を見直し、セキュリティを強化(Hardening)する。 サーバー構成などをコードで管理(Infrastructure as Code)し、設定ミスを防ぎ、一貫性を保つ。 A06: 脆弱で古くなったコンポーネント (Vulnerable and Outdated Components) 利用しているライブラリやフレームワークといったソフトウェア部品(コンポーネント)に、既知の脆弱性が存在したり、サポートが終了した古いバージョンを使い続けたりしている状態です。 攻撃者は、広く知られている弱点を効率的に狙ってくるため、システムへの侵入を簡単に許してしまう原因となります。 主な対策のポイント 使用している全てのコンポーネントとそのバージョンを正確に把握する(SBOM: ソフトウェア部品表の活用が有効)。 脆弱性情報を常に収集し、セキュリティパッチやアップデートが公開されたら、速やかに適用する体制を整える。 サポートが終了したコンポーネントは、原則として使用しない。 A07: 識別と認証の失敗 (Identification and Authentication Failures) ユーザーが誰であるかを確認したり(識別)、本人であることを検証したりする仕組み(認証)、つまりログイン周りの機能に不備がある状態のことです。 これにより、他人になりすまして不正にログインされたり、それに伴って個人情報が盗み見られたり、不正な操作が行われたりします。 主な対策のポイント 推測されにくい、複雑なパスワードの使用を強制するポリシーを導入する。 パスワードに加えて、SMS認証やアプリ認証などを組み合わせる「多要素認証(MFA)」を導入する。 ログイン試行に何度も失敗した場合に、アカウントを一時的にロックする機能を実装する。 ログイン状態を維持するためのセッションIDは、安全な方法(CookieのSecure属性やHttpOnly属性など)で管理する。 A08: ソフトウェアとデータの整合性の不具合 (Software and Data Integrity Failures) ソフトウェアのアップデートファイルや、外部から取り込むデータについて、その信頼性や改ざんの有無を十分に検証しないことで生じるリスクです。 正規のアップデートに見せかけてマルウェアを混入させるなど、ソフトウェア供給網(サプライチェーン)を狙った深刻な攻撃につながります。 主な対策のポイント ソフトウェアやライブラリなどの入手元を、信頼できる公式なソースに限定し、ダウンロードしたファイルの完全性をデジタル署名やハッシュ値で検証する。 ソフトウェア開発・配布プロセス(CI/CDパイプライン)自体のセキュリティを確保する。 外部からデータを取り込む際には、その内容や形式が想定通りか、厳格なバリデーションを行う。 A09: セキュリティログと監視の失敗 (Security Logging and Monitoring Failures) 不正アクセスやシステムエラーといった出来事の記録(ログ)が不十分だったり、記録されたログが適切に監視・分析されていなかったりする状態です。 これでは、攻撃を受けても発見が遅れて被害が拡大したり、問題が発生した後に原因を突き止めることが困難になります。 主な対策のポイント 監査すべき重要なイベント(ログイン試行、アクセス制御エラー、管理者操作など)を特定し、十分な情報(誰が、いつ、何をしたか等)を含むログを確実に記録し、改ざんされないよう保護する。 SIEM(Security Information and Event Management)などのツールを活用してログをリアルタイムで監視・分析し、異常を検知したらアラートを発する仕組みを構築する。 インシデント(セキュリティ事故)が発生した場合の対応手順を事前に整備しておく。 A10: サーバーサイドリクエストフォージェリ (Server-Side Request Forgery - SSRF) 攻撃者が、脆弱性のあるWebサーバーを踏み台にして、そのサーバーから内部ネットワークの他のサーバーや、外部の特定のサーバーなどへ、意図しないリクエストを送信させる攻撃です。 本来アクセスできないはずのファイアウォール内部への不正アクセスや、機密情報(クラウド環境の認証情報など)の窃取につながる危険があります。 主な対策のポイント 外部から受け取ったURLやホスト名を、そのままリクエスト先の指定に使用せず、アクセス先を事前に許可されたドメインやIPアドレスだけに制限する(ホワイトリスト方式)。 ネットワークレベルで、Webサーバーから内部ネットワークの他のサーバーへの不要なアクセス(特にクラウドのメタデータサービスなどへのアクセス)を遮断する。 皆さんの関わるシステムにも、思い当たる点や、すぐに対策が必要だと感じた項目があったのではないでしょうか? これらは、現在のWebアプリケーションが抱える、特に重要度の高いセキュリティ上の脅威です。 一つでも対策が漏れていれば、それが大きなインシデントの引き金となる可能性も否定できません。 では、なぜこれらのリスクへの対策が、ビジネスを守る上でこれほどまでに重要なのでしょうか? その理由を次に詳しく解説していきます。 なぜOWASP Top 10への対策が重要なのか? ここまでOWASP Top 10の各リスクを見てきましたが、「なぜ、これらの対策がそれほどまでに重要視されるのか?」という点について、改めて考えてみましょう。 理由は大きく分けて2つあります。 世界的な「標準指標」としての影響力があるため すでにお伝えした通り、OWASP Top 10は特定の企業や組織の意見ではなく、世界中のセキュリティ専門家の知見と実際の攻撃データに基づいて作成された、信頼性の高い指標です。 そのため、以下のような大きな影響力を持っています。 業界標準としての認識 多くの企業や開発現場で、Webアプリケーションのセキュリティレベルを測るための共通の物差しとして認識されています。 開発・調達要件への組み込み 新しいシステムを開発する際や、外部のサービスを導入する際に、OWASP Top 10への準拠を要件として求めるケースが増えています。 他のセキュリティ基準でも推奨 PCI DSS(クレジットカード業界のセキュリティ基準)やNIST(米国国立標準技術研究所)などが発行する他のセキュリティガイドラインやフレームワークでも、OWASP Top 10への対応が推奨・参照されています。 つまり、OWASP Top 10への対策は、単なる技術的な推奨事項にとどまらず、ビジネス上の要求やコンプライアンス遵守の観点からも無視できないものになっているのです。 顧客や取引先からの信頼を得るためにも、この世界標準への対応は不可欠と言えるでしょう。 対策の遅れが、大きな被害に繋がる恐れも OWASP Top 10で挙げられている脆弱性は、実際に多くのサイバー攻撃で悪用されており、対策をしなかった場合には、ビジネスに深刻なダメージを与えかねません。 情報漏洩 顧客情報、個人情報、企業の機密情報などが外部に流出し、損害賠償請求や社会的信用の失墜につながります。(例:A02 暗号化の失敗、A03 インジェクションによるデータベースからの情報窃取) 金銭的損失 不正送金、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)による被害、サービス復旧にかかる費用、訴訟費用など、直接的な金銭被害が発生します。 サービス停止 Webサイトが改ざんされたり、サービス妨害(DoS)攻撃を受けたりして、サービス提供が不可能になり、ビジネス機会の損失や顧客離れを引き起こします。(例:A05 セキュリティ設定ミスによる不正アクセス、A09 ログ監視の失敗による攻撃検知の遅れ) 法的責任 GDPR(EU一般データ保護規則)や日本の改正個人情報保護法など、国内外の法規制に基づき、多額の制裁金が科される可能性があります。 ブランドイメージの失墜 セキュリティインシデントは大きく報道されることも多く、一度失った企業の評判やブランドイメージを回復するには、長い時間と多大なコストがかかります。 過去には、OWASP Top 10に含まれる脆弱性が原因で、大手企業が大規模な情報漏洩事件を引き起こした例も少なくありません。 事例①:コンポーネント脆弱性の放置 → 1.4億人超の情報漏洩 米国の信用情報会社Equifax社の事件では、Webアプリケーションフレームワークの既知の脆弱性(A06 脆弱で古くなったコンポーネントに該当)を修正せずに放置したことが原因で、約1億4700万人分もの膨大な個人情報が漏洩しました。 出典:「Equifax Data Breach (epic.org)」 事例②:設定ミス+SSRF → 1億人超の情報漏洩 米国の金融大手Capital One銀行の事件では、クラウド環境の設定ミス(A05 セキュリティ設定ミス)とSSRF(A10)の脆弱性を突かれ、攻撃者が内部の管理情報に不正アクセス。結果として、約1億600万人分の顧客申請情報などが漏洩する事態となりました。 出典:「A Case Study of the Capital One Data Breach (MIT)」 これらは極めて被害が大きかった代表的な事例ですが、決して他人事ではありません。 自社のビジネスと顧客を守るためには、OWASP Top 10で指摘されている基本的なリスクへの対策を、一つひとつ確実に実施していくことが、極めて重要なのです。 OWASP Top 10対策はどう進める?費用対効果を最大化する方法 では、具体的にどのように対策を進めていけば良いのでしょうか? 限られた予算やリソースの中で最大限の効果を出すには、「ツールによる自動診断」と「専門家による手動診断」をうまく組み合わせることがポイントになります。 まずはツールでセルフチェック OWASP ZAPを活用しよう まず手軽に始められるのが、脆弱性診断ツールを使ったセルフチェックです。 特に、OWASP自身が提供している無償のツール「OWASP ZAP」が有名です。 ツールを使うメリットは、広範囲を自動で、かつ手軽にチェックできる点にあります。 特に、パターン化しやすい脆弱性(例えば、A03 インジェクションの一部、A05 セキュリティ設定ミス、A06 脆弱で古くなったコンポーネントなど)の発見に役立ちます。 ただし、ツールだけでは万全とは言えません。 複雑な手順が必要な攻撃や、設計上の問題(A01 アクセス制御の不備、A04 安全でない設計など)は見つけにくい傾向があります。 また、実際には問題ない箇所を脆弱性として検出してしまう「誤検知」も起こり得ます。 診断結果を正しく判断し、対応するには、ある程度の知識も必要です。 ツールによる診断は、あくまで最初のスクリーニング(ふるい分け)と捉えるのが良いでしょう。 ツールだけでは不安? 専門家診断で確実な安心を ツールでのチェックには限界があります。 そこで頼りになるのが、セキュリティ専門家による脆弱性診断です。 専門家は、攻撃者の視点に立って、ツールだけでは見逃してしまうような複雑な脆弱性(特にA01 アクセス制御の不備やA04 安全でない設計など)を発見することができます。 発見されたリスクの深刻度を正確に評価し、具体的な修正方法までアドバイスをもらえる点も大きなメリットです。 これは、社内だけでなく、顧客や取引先に対する信頼性の証明にも繋がります。 私たちIFTがこれまでに1,000件以上の診断を行ってきた経験からも、専門家による診断の重要性を実感しています。 もちろんコストはかかりますが、万が一、深刻なセキュリティインシデントが発生した場合の損害(復旧費用、賠償金、信用の失墜など)を考えれば、リスクを未然に防ぐための有効な投資と言えます。 【費用対効果大】最適な対策は「組み合わせ」にあり では、結局どう進めるのがベストなのでしょうか? システムの重要度や複雑さ、開発フェーズ、そして予算に応じて、ツール診断と専門家診断を最適に組み合わせることが、もっとも費用対効果を高めます。 有効な進め方の例 基本はツールで定期的にチェック: 日常的なチェックや、軽微な修正後の確認に活用します。 重要箇所や特に不安なリスクは専門家診断を検討: 特にリスクの高い箇所(個人情報や決済情報を扱う機能など) ツールでは発見しにくいリスク(A01, A04, A08, A10など)が懸念される場合 新規リリース前や、大規模な改修後など、重要なタイミングでの実施が効果的です。 継続的な監視と改善を忘れずに: 一度の診断で終わりではなく、継続的にセキュリティレベルを維持・向上させる意識が大切です。 株式会社アイ・エフ・ティでは、ツール診断の網羅性と専門家診断の深さを組み合わせた『ハイブリッド診断』を提供しています。 費用対効果の高い選択肢として、多くのお客様からご評価いただいています。 簡易的なクイック診断から、網羅的なハイブリッド診断、そして診断後のフォローアップまで、一貫してサポートいたします。 🔗ハイブリッド診断サービスページへ 「ツールだけだと、やっぱり不安が残る…」「うちのシステムには、どの診断方法が合っているんだろう?」 そんな疑問やお悩みをお持ちでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。 まとめ:ツールと専門家診断でOWASP Top10対策を ここまで、OWASP Top 10の重要性と10のリスク、そして対策の必要性について見てきました。 「OWASP TOP10 とは?」という疑問から始まり、Webセキュリティの基本として対策が不可欠であること、しかしその方法選びが重要であることをご理解いただけたかと思います。 対策としては、ツール診断×専門家診断の組み合わせが、費用対効果を高めるポイントになります。 OWASP Top 10はWebセキュリティ対策の基本指標 対策不足は深刻なビジネスリスクに直結 ツール診断は手軽だが限界あり 専門家診断は確実だがコストがかかる 「ツール+専門家」の組み合わせが費用対効果大 「自社に合う対策は?」「費用は?」そんな具体的な悩みに、私たち株式会社アイ・エフ・ティがお応えします。 1,000件を超える診断実績を持つ『ハイブリッド診断』は、ツールの網羅性と専門家の深い知見を組み合わせ、費用対効果の高いセキュリティ対策を実現します。 お客様の状況に合わせた最適なプランをご提案可能です。 まずはリスクの再確認から始め、より具体的な診断にご興味があれば、ぜひお気軽にご相談ください。 🔗ハイブリッド診断サービスページへ

DoSとDDoSの違いは?疑似体験で見えた本当の弱点と脆弱性対策の学び | サイバー攻撃

DoSとDDoSの違いは?疑似体験で見えた本当の弱点と脆弱性対策の学び

Webサイトやサービスを守る上で、「DoS攻撃」と「DDoS攻撃」の違いを理解することは、とても大切です。 言葉は聞いたことがあっても、 具体的に何が違い、どちらがより深刻なのか? 基本的な対策はしているけれど、本当にそれで十分なのだろうか? といった疑問をお持ちではないでしょうか。 この記事では、DoS攻撃とDDoS攻撃の明確な違いを解説するだけでなく、さらに一歩踏み込みます。 実際の攻撃をリアルなレポート風のシミュレーションで示し、その脅威とビジネスへの影響を具体的にイメージしていただけるよう解説します。 さらに、一般的な対策の「限界」と、多くの場合で見過ごされがちな根本原因、すなわち「脆弱性」に迫り、本当に必要な対策を解き明かしていきます。 長年のセキュリティ診断実績を持つIFTが、現場の視点から分かりやすく解説します。 この記事を読めば、こんな疑問が解決します! DoS攻撃とDDoS攻撃、具体的に何がどう違うの? どちらの攻撃がより深刻で、対策が難しいのはなぜ? DDoS攻撃を受けた時の、リアルな被害状況が知りたい ファイアウォールやWAFだけでは、なぜ対策として不十分なの? 攻撃を防ぐために、本当にやるべき「根本的な対策」とは? 自社のセキュリティ対策、どこから見直せばいい? まずは基本から!DoS攻撃とDDoS攻撃とは? まず本題に入る前に、DoS攻撃とDDoS攻撃の基本的な概要について、簡単におさらいしておきましょう。 これらの攻撃はどちらも、標的とするサーバーやネットワークに過剰な負荷をかけ、サービスを利用不能な状態に追い込む「サービス妨害攻撃」の一種です。 DoS攻撃とは? DoS攻撃(Denial of Service attack)は、基本的に「1台」のコンピューターから標的に対して、大量の処理要求や不正なデータを送りつける攻撃です。 攻撃を受けたサーバーは処理能力を超えてしまい、応答が遅くなったり、最悪の場合はサービスが停止したりします。 より詳しいDoS攻撃の仕組みや種類については、以下の記事で解説しています。 DDoS攻撃とは? DDoS攻撃(Distributed Denial of Service attack)は、DoS攻撃をさらに強力にしたもので、「多数」のコンピューターから一斉に攻撃を仕掛けます。 攻撃者は、マルウェアなどに感染させて乗っ取った多数のコンピューター(これらを「ボット」と呼び、そのネットワークを「ボットネット」と呼びます)を遠隔操作し、標的に向けて大量のデータを送りつけるのが特徴です。 より詳しいDDoS攻撃の仕組みや近年の動向については、以下の記事をご覧ください。 DoS vs DDoS:その決定的な違いとは? DoS攻撃とDDoS攻撃は、どちらもサービス妨害を目的とする点は共通していますが、その性質や影響度には大きな違いがあります。 ここでは、両者の主な違いを整理して見ていきましょう。 攻撃規模・攻撃元の数・被害インパクト 最大の違いは、攻撃に関与するコンピューターの数です。 DoS攻撃: 攻撃者自身が用意した1台、または少数のコンピューターから攻撃が行われます。そのため、攻撃の規模や威力には限界があります。 DDoS攻撃: 数百、数千、場合によっては数十万台以上の「ボットネット」と呼ばれる乗っ取られたコンピューター群から、一斉に攻撃が行われます。これにより、DoS攻撃とは比較にならないほど大規模で強力な攻撃が可能になります。 この攻撃元の数の違いが、被害の深刻さや対策の難易度にも直結します。 DDoS攻撃では、短時間に膨大な量の不正な通信が押し寄せるため、サーバーやネットワーク機器が処理しきれず、大規模かつ長時間のサービス停止を引き起こす可能性が高まります。 例えば、2016年に発生した「Mirai」ボットネットによる攻撃では、セキュリティ対策が不十分な監視カメラやルーターといった10万台以上のIoT機器が悪用され、米国のDNSサービス大手Dyn社が標的となりました。 その結果、TwitterやNetflix、Amazonなど、世界的に有名な多くのWebサービスが数時間にわたり利用できなくなるという深刻な事態を引き起こしました。 引用:日経XTECH DNSサービスの「Dyn」に大規模DDoS攻撃、Twitterなどが影響受けダウン また、2021年に観測された「Meris」ボットネットによる攻撃では、ロシアの大手IT企業に対して毎秒2180万リクエストという、当時としては世界記録となる規模のトラフィックが送りつけられたと報告されています。 引用: ITmedia 新手の「疫病」ボットネットが仕掛ける大規模DDoS攻撃、威力はMiraiの3倍以上 このような桁違いの攻撃規模は、DDoS攻撃の脅威を如実に示しています。 表で見る両者の比較(難易度・検知方法など) DoS攻撃とDDoS攻撃の主な違いを以下の表にまとめました。 項目 DoS攻撃 DDoS攻撃 攻撃元 攻撃者の1台 or 少数のマシン 数千~数十万台のボットネット(分散) トラフィック規模 比較的限定的 非常に大規模になる可能性が高い 検知の容易さ 攻撃元IPが特定しやすいため比較的容易 攻撃元が多数・分散し、IP偽装も多いため検知が困難 防御の難易度 IPアドレス遮断などで対処しやすい 攻撃元の特定・遮断が困難。多層的な対策が必要 主な対策手段 ファイアウォール、アクセス制御リスト DDoS緩和サービス、CDN、WAF、専門ベンダーによる支援など総合的な対策が不可欠 被害の深刻度 部分的・一時的なサービス遅延/停止 大規模・長時間のサービス停止、ビジネスへの甚大な影響 このように、DDoS攻撃はDoS攻撃に比べて格段に対策が難しく、被害も深刻化しやすい傾向にあります。 攻撃元が世界中に分散している上に、IPアドレスを偽装しているケースも多いため、単純なIPアドレスベースの遮断では効果が薄く、正常なユーザーからのアクセスまでブロックしてしまうリスクも伴います。 そのため、DDoS攻撃への対策には、単純な防御策だけでなく、攻撃トラフィックを専門的に分析・洗浄するサービスや、コンテンツ配信を最適化する仕組み、そして何よりも攻撃の根本原因となりうるシステムの「脆弱性」への対処が大切になってきます。 【被害シミュレーション】実際のDDoS攻撃を疑似体験 理論や違いを理解したところで、実際にDDoS攻撃を受けると、企業や担当者はどのような状況に置かれることになるのでしょうか? リアルな状況を体験していただくために、 ここでは、ある架空のECサイト運営会社がDDoS攻撃を受けた際のインシデント対応を、レポート風に時系列で見ていきましょう。 インシデントレポート 対象企業: 株式会社サンプルコマース(中堅ECサイト運営) 発生日時: 202X年X月X日 午前9時15分 【発生】XX年X月X日 午前9時15分 週明けの月曜日、午前9時の業務開始とともに、ECサイトへのアクセスが徐々に増加し始めます。 普段通りの朝…のはずでした。 午前9時15分、社内の監視システムから、Webサーバーへの異常なトラフィック急増を示す通知が届きました。 ほぼ同時に、カスタマーサポート部門へ「サイトが表示されない」「カートに商品が入らない」といった顧客からの問い合わせ電話が複数入り始めます。 【状況①】顧客からのアクセス不能報告、同時多発アラート ITインフラ担当者は、すぐさま状況確認を開始。 監視ダッシュボードを見ると、外部からのネットワークトラフィック量が通常の10倍以上に跳ね上がり、WebサーバーのCPU使用率はほぼ100%に達しています。 アクセスログには、特定の海外IPアドレスレンジから、異常な数のアクセス試行が記録されていました。 「DoS攻撃か…?」 まず、攻撃元と疑われるIPアドレスをファイアウォールで手動ブロックする対応を試みます。 しかし、ブロックしてもすぐに別のIPアドレス帯からのアクセスが増加し、状況は一向に改善しません。 むしろ、アラートの数は増え続け、サイトは完全にアクセス不能な状態に陥っていました。 カスタマーサポートへの問い合わせ電話は鳴り止まず、社内は混乱に包まれ始めます。 【状況②】原因特定と対策の難航(発生〜6時間経過) 発生から6時間が経過。 ITインフラチームは不眠不休で対応にあたっていますが、攻撃の全容は依然として掴めていませんでした。 パケットキャプチャによる詳細な分析の結果、SYNパケットを大量に送りつけてサーバーのリソースを枯渇させる「SYNフラッド攻撃」が主体であることが判明。 しかし、攻撃元のIPアドレスは世界中に分散しており、その多くが偽装されている可能性が高い状況です。 IPアドレスベースでの防御は、もはや限界でした。 サーバーのスペック増強も試みましたが、押し寄せるトラフィック量に対しては「焼け石に水」の状態。 社内で導入していたWAF(Web Application Firewall)も、大量のコネクション要求そのものを捌ききれず、有効な防御策とはなっていませんでした。 対応に追われる中、チームメンバーの脳裏に、ある懸念がよぎります。 「そういえば、先月公開されたWebサーバーのミドルウェアに関する緊急度の高い脆弱性パッチ(CVE-202X-XXXX)、他の業務に追われて適用が後回しになっていたな…」 「WAFも導入時に推奨されたSYNフラッド対策のカスタムルール、設定が複雑そうでデフォルトのまま運用していた…」 これらの「後回し」が現状を招いた一因ではないか、という疑念がメンバーの心に重くのしかかります。 【状況③】ビジネスへの影響拡大(発生〜24時間経過) 攻撃開始から丸一日が経過しても、ECサイトは断続的にダウンしたままです。 この間、サイト経由の売上は完全にゼロ。 ちょうど開始したばかりの大型セール期間中だったこともあり、機会損失額は数千万円規模に達すると試算されました。 カスタマーサポート部門はクレーム対応に追われ続け、疲弊の色は隠せません。 SNS上では「#サンプルコマース繋がらない」というハッシュタグが拡散され、「サイバー攻撃を受けたらしい」「個人情報が漏洩したのでは?」といった憶測や不安の声が飛び交い、企業イメージは大きく傷つき始めていました。 経営陣は、自社だけでの完全復旧は困難と判断。 コストはかかるものの、外部の専門セキュリティベンダーへ緊急支援を要請することを決定します。 同時に、顧客への影響と原因調査のため、サービスを一時的に完全に停止するという苦渋の決断を下すことになりました。 【状況④】外部支援による原因究明と復旧(発生〜72時間経過) 外部セキュリティベンダーの支援が開始されました。 専門家による高度なトラフィック分析とログ解析の結果、攻撃手法はSYNフラッドに加え、特定のUDPポートを狙ったフラッド攻撃も組み合わされていたことが判明。 さらに、攻撃の踏み台となっていたボットネットの種類も特定されます。 そして、最も重要な発見として、チームメンバーが懸念していたWebサーバーのミドルウェアの脆弱性(CVE-202X-XXXX)が、攻撃の侵入経路、あるいは攻撃を増幅させる要因として悪用されていた可能性が高いことが指摘されました。 また、WAFの設定不備も防御効果を著しく下げていたことが明らかになりました。 ベンダーの助言に基づき、以下の対策が迅速に実施されました。 特定された脆弱性に対する緊急パッチの適用 WAFのシグネチャ更新とSYNフラッド対策用カスタムルールの適用 信頼できない送信元IPアドレスリスト(ブラックリスト)の適用強化 DDoS攻撃トラフィックを専門施設でフィルタリングするスクラビングセンターサービスへの一時的なトラフィック迂回 これらの対策が効果を発揮し、攻撃開始から約72時間後、ようやくECサイトは安定稼働を取り戻しました。 しかし、これで終わりではありません。 サービス復旧後も、 失われた顧客からの信頼回復に向けた広報活動 原因となった脆弱性への恒久的な対策計画の策定 インシデント対応プロセス(連絡体制、判断基準、外部連携フローなど)の抜本的な見直し といった、多くの課題が残されました。 このインシデント対応にかかった費用(外部ベンダー費用、機会損失、信頼回復コストなど)は、事前の対策コストを遥かに上回るものとなってしまったのです。   【注釈】 これは架空の事例です。レポート内に登場する企業名、個人名、日時、状況設定等はすべてフィクションであり、実在する企業、個人、団体とは一切関係がありません。 このシミュレーションは一例ですが、DDoS攻撃がいかに深刻な事態を引き起こし、ビジネスの根幹を揺るがしかねないか、リアルに感じていただけたのではないでしょうか。 インシデント事例から学ぶ教訓:脆弱性対策で見落としがちなポイント 先のインシデントシミュレーションは、私たちに多くの重要な教訓を教えてくれます。 特に、日頃のセキュリティ対策において見落とされがちな「脆弱性」に関するポイントを3つ、深く掘り下げていきましょう。 教訓1:「うちは大丈夫」という油断が最大の脆弱性 シミュレーションの担当者が抱いた「まさか自社がこれほど大規模な攻撃を受けるとは…」という思いは、多くの企業担当者が感じてしまうかもしれません。 「うちは規模が小さいから狙われない」「大手企業ほど価値のある情報はない」といった考えは、非常に危険な考え方と言えるかもしれません。 実際には、DDoS攻撃の標的は大手企業に限りません。 攻撃者は、セキュリティ対策が手薄な中小企業のサーバーや、あるいは一般家庭のルーター、IoT機器などを乗っ取り、それらを「踏み台」として利用します。 2021年のMeris攻撃では、脆弱性が放置された一般向けのルーター約25万台がボットネットの一部になったとされています。 つまり、自社のセキュリティ意識の低さが、意図せず他の企業への攻撃に加担してしまうリスクもある、ということです。 「うちは大丈夫」という根拠のない自信は、セキュリティ対策への投資や意識向上を妨げる最大の「脆弱性」と言えるでしょう。 常に「自社も狙われる可能性がある」という前提に立ち、対策を怠らない姿勢が大切です。 教訓2:パッチ管理・設定不備が攻撃者に絶好の機会を与える シミュレーションの中で、担当者が「パッチ適用が後回しになっていた」「WAFの設定がデフォルトのままだった」と気づく場面がありました。 これは、実際のインシデント現場でも、非常によく耳にする話です。 ソフトウェアやミドルウェアには、日々新たな脆弱性が発見されます。 開発元からは、それらを修正するためのセキュリティパッチが提供されますが、日々の業務に追われて適用が遅れたり、適用によるシステム影響を懸念して見送られたりすることが少なくないのが現実です。 また、ファイアウォールやWAFなどのセキュリティ機器も、導入しただけで満足してしまい、自社の環境に合わせた適切な設定やチューニングが行われていないケースが見受けられます。 2016年のMirai攻撃では、初期パスワードが変更されていないIoT機器が主な標的となりました。 このように、基本的なパッチ管理の徹底や設定の見直しを怠ることは、攻撃者にとって格好の侵入口を提供してしまうことになってしまいます。 セキュリティ対策は「導入して終わり」ではなく、継続的な運用管理がとても大切です。 教訓3:インシデント発生時の対応コストは、事前対策コストを遥かに上回る シミュレーションの最後で触れたように、インシデントが発生してからの対応には、多大なコストがかかってしまいます。 外部ベンダーへの緊急対応費用、サービス停止による売上損失、顧客対応のための人件費、信頼回復のための広報費用、そして事後のシステム改修費用…。 これらを合計すると、事前に適切な対策(例えば、DDoS対策サービスの導入や定期的な脆弱性診断)を行っていた場合のコストを遥かに上回ることがほとんどだと言えそうです。 「セキュリティ対策はコストがかかる」と考えられがちですが、インシデント発生時の損失と比較すれば、事前対策はむしろ将来のリスクを低減するための「投資」と捉えるのが自然かもしれません。 経営的な視点からも、インシデントによる事業継続への影響を考慮し、予防的なセキュリティ対策の費用対効果を正しく評価することが大切になってきます。 これらの教訓を踏まえ、次のセクションでは、一般的な対策とその限界について見ていきましょう。 まずは知っておきたい、一般的なDoS/DDoS対策とその限界 DDoS攻撃の脅威を理解した上で、どんな対策があるでしょうか。 ここでは、一般的に知られている対策とその効果、そしてそれだけでは不十分な理由、つまり「限界」について見ていきましょう。 ネットワークレベルでの防御(ファイアウォール、IP制限、帯域確保) ファイアウォールやアクセス制御リスト(ACL)を用いて不正アクセスや不要な通信を制限したり、十分なネットワーク帯域を確保したりすることは、ネットワークレベルでの基本的な防御策です。 これにより、ある程度のトラフィック増加に対する耐性を高める効果が見込めます。 しかし、大量かつ偽装されたIPアドレスからのDDoS攻撃に対しては、IPアドレス制限だけでは対処が困難です。 また、大規模な攻撃に対しては、自社で確保している帯域だけでは不十分な場合(まさに「焼け石に水」の状態)や、防御機器自体が過負荷になってしまう可能性も考えられます。 <主な対策例> ファイアウォールルールの定期的な見直し・最適化 Geo-IPフィルタリング(国別IP制限)の検討 ネットワークトラフィックの常時監視と早期異常検知 ISP(インターネットサービスプロバイダ)などが提供するDDoS対策オプションの利用 <限界と次の一手> ネットワーク入口での対策は基本ですが、大規模なDDoS攻撃や設定不備のリスクは残ります。 ネットワーク構成自体の安全性を客観的に評価するには、「プラットフォーム診断(ネットワーク診断)」で潜在的なリスクを洗い出すことが役に立ちます。 アプリケーションレベルでの防御(WAF) WAF(Web Application Firewall)は、自社が提供するWebアプリケーションの脆弱性を狙った攻撃や、特定のHTTP/HTTPSベースのDoS/DDoS攻撃を検知・遮断するのに効果を発揮します。 通信内容を詳細に分析し、不正なアクセスをより正確に見分けやすくなります。 一方で、SYNフラッド攻撃のようなネットワーク層レベルでの大量パケット攻撃への防御には限界があります。 また、大規模な攻撃時にはWAF自体が処理限界に達する可能性も考えておく必要があります。 さらに、その効果を維持するためには、継続的なシグネチャ更新や、自社環境に合わせたチューニングが欠かせません。 <主な対策例> WAFのシグネチャを常に最新の状態に保つ 自社のアプリケーションに合わせたカスタムルールを作成し、防御精度を高める WAFのログを定期的に監視・分析する 可能であれば、スケーラビリティの高いクラウド型WAFを選択する <限界と次の一手> WAFは強力な盾ですが、万能ではありません。 WAFをすり抜ける攻撃や、アプリケーション固有の脆弱性を突かれるリスクは残ります。 WAFの効果を最大化し、根本的な弱点を解消するには、「Webアプリケーション診断」で脆弱性を特定・修正することが大切です。 また、スマートフォンアプリを提供している場合は、アプリ自体の脆弱性がバックエンドAPIへの攻撃につながる可能性もあるため、スマートフォンアプリケーション診断も併せて検討することが、より包括的な対策となります。 コンテンツ配信の最適化(CDN) CDN(Content Delivery Network)は、コンテンツをキャッシュ配信することでオリジンサーバー(元のサーバー)の負荷を軽減します。 また、地理的に分散されたサーバーで攻撃トラフィックを吸収・分散させる効果も見込めます。 ただし、CDN自体が攻撃対象となる可能性や、動的なコンテンツやAPI通信などは保護しきれないケースもあります。 また、利用するCDNサービスによってDDoS対策機能のレベルが異なる点にも気をつけたい点です。 <主な対策例> DDoS対策機能が充実したCDNサービスを選択する キャッシュ設定を最適化し、オリジンサーバーへの負荷を極力減らす オリジンサーバーへの直接アクセスを制限する(CDN経由のアクセスのみ許可するなど) CDNの監視・アラート機能を活用する <限界と次の一手> CDNは負荷分散に有効ですが、オリジンサーバー自体の安全性が確保されていなければ意味がありません。 CDNに隠れたオリジンサーバーに脆弱性が残っていないか、脆弱性診断で確認し、根本的な対策をしっかり行っておくことが大切です。 システムの健全性維持(パッチ管理、設定見直し、脆弱性診断) OSやミドルウェアなどのセキュリティパッチを適用して既知の脆弱性を修正したり、不要なサービスを停止したり、パスワードを強化したりといった基本的な設定を見直したりすることは、システムの健全性を維持する上でとても大切です。 これらは攻撃の足がかりを減らす効果が期待できます。 そして、もっとも根本的かつ効果的な対策が「脆弱性診断」です。 自社では気づきにくいシステムの弱点を専門家の視点で特定し、修正することで、攻撃のリスクを大幅に減らすことができます。 しかし、未知の脆弱性(ゼロデイ脆弱性)への対応は困難であり、パッチの適用漏れや設定ミスといったヒューマンエラーのリスクは常につきものです。 <主な対策例> 脆弱性管理プロセスを確立し、セキュリティパッチを迅速かつ計画的に適用する 不要なサービス・ポート・アカウントを定期的に見直し、整理する 複雑なパスワードの使用と適切な管理を徹底する 定期的な脆弱性診断(Webアプリケーション診断やプラットフォーム診断など)を実施し、システム全体のセキュリティリスクを網羅的に洗い出し、修正する <日々の運用だけでは不十分な理由と次の一手> パッチ適用や設定見直しは重要ですが、日々の運用だけでは見落としやミスが発生しがちです。 基本的な対策が本当に有効か、他に弱点はないかを確認するには、専門家による定期的な脆弱性診断が一番確実な方法だと言えそうです。 診断によってリスクを可視化し、優先順位をつけて対策を進めることが、真のセキュリティ強化につながっていくのです。 なぜ表面的な対策だけでは不十分なのか?根本原因「脆弱性」への対処 上記で紹介した対策は、それぞれ有効な場面もありますが、共通しているのは「対症療法」的な側面が強い、という点が挙げられます。 攻撃トラフィックをブロックしたり、負荷を分散させたりすることはできますが、攻撃者が悪用するシステムの根本的な「弱点=脆弱性」そのものを取り除くわけではないのです。 攻撃者は常に新しい手法を生み出し、システムの脆弱性を探し続けています。いくら入口で防御策を講じても、システム内部に未修正の脆弱性が残っていれば、そこを突かれて攻撃が成功してしまうリスクがあります。 先のシミュレーションでも、パッチ未適用の脆弱性が攻撃を深刻化させる一因として影響していました。 したがって、真に効果的な対策を実現するためには、これらの一般的な防御策に加えて、自社システムに潜む「脆弱性」を定期的に発見し、修正していくという、より根本的な考え方が重要になってきます。。 あなたの会社のセキュリティ体制は万全か? 脆弱性リスクセルフチェック これまでの内容を踏まえ、貴社のセキュリティ体制、特に脆弱性対策について、一度立ち止まってチェックしてみましょう。 以下の項目について、自社の状況を正直にチェックしてみてください。 定期的な脆弱性診断を実施し、発見された脆弱性に対して計画的に対策を行っていますか?(最重要) サーバーOSやミドルウェア、利用しているソフトウェアのセキュリティパッチ情報を常に収集し、速やかに適用する体制が整っていますか? ファイアウォールやWAFを導入している場合、その設定は定期的に見直され、自社の環境に合わせて最適化されていますか? ルーターやIoT機器など、ネットワークに接続される機器のファームウェアは最新の状態に保たれていますか? また、初期パスワードは変更されていますか? 不要なサービスやポートが外部に公開されたままになっていませんか? アクセス権限は適切に管理されていますか? DDoS攻撃を想定したインシデント対応計画(連絡体制、役割分担、外部ベンダーとの連携フローなど)は明確になっていますか? 従業員に対して、基本的なセキュリティ対策(パスワード管理、不審なメールへの注意など)に関する教育や注意喚起を行っていますか? どうでしたか? もし、チェックできない項目が複数あったり、「最重要」と記した脆弱性診断の実施ができていない場合には、貴社のシステムには、DDoS攻撃を含むサイバー攻撃のリスクが潜んでいるかもしれません。 まとめ:深刻な被害を未然に防ぐために。今すぐ始める脆弱性対策 この記事では、DoS攻撃とDDoS攻撃の基本的な違いから始まり、架空のインシデントレポートを通じてDDoS攻撃がもたらすリアルな脅威とビジネスへの影響を疑似体験する形でお伝えしてきました。 そして、その教訓から、一般的な対策の限界と、根本原因である「脆弱性」への対策がいかに重要であるかを説明してきました。 しかし、深刻な被害を未然に防ぐために一番大切なのは、自社システムに潜む脆弱性を正確に把握し、計画的に対処していくことです。 先のセルフチェックで不安を感じた方は、まず以下のステップから始めてみることをおすすめします。 現状把握: 自社で利用しているシステム、ソフトウェア、ネットワーク機器のリストを作成し、それぞれのバージョン情報や設定状況を確認する。 情報収集: 利用している製品に関する脆弱性情報や、セキュリティパッチのリリース情報を定期的にチェックする体制を整える。 専門家への相談: 自社だけでの対応に不安がある場合、セキュリティ専門家やベンダーに相談する。 特に、定期的な「脆弱性診断」は、自社では気づきにくいシステムの弱点を専門家の視点から洗い出す上でとても有効な方法だと言えます。 診断結果に基づいて具体的な対策を進めることで、セキュリティレベルを効果的に高めることにつながります。 DDoS攻撃のリスクは、決して他人事ではありません。 この記事が、貴社のセキュリティ対策を見直し、具体的な行動を起こすきっかけとなれば嬉しく思います。

Webサイトは簡単に落とせる?DoS攻撃の仕組みを5分で理解! | サイバー攻撃

Webサイトは簡単に落とせる?DoS攻撃の仕組みを5分で理解!

「DoS攻撃」と聞くと、大規模なサイバー攻撃を想像されるかもしれませんが、実は、皆様が普段利用されているWebサイトでも、DoS攻撃によって簡単にサービス停止が停止してしまう可能性があります。 最近では、DoS攻撃を行うためのツールが、特別な知識やお金がなくても手軽に入手できるようになってしまいました。 そのため、大企業だけでなく、中小企業や学校、病院など、私たちの生活に欠かせない組織も、攻撃のターゲットになる危険性が高まっています。 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)も、この状況を深刻な問題として注意喚起しており、早急な対策の必要性を訴えています。 この記事では、DoS攻撃の仕組みやパターンと、今すぐ実践できる2つの対策について、具体的に解説します。 DoS攻撃とは?知っておきたいサイバー攻撃の基本 DoS攻撃とは? DoS攻撃とは(Denial of Service attack:サービス拒否攻撃)の略称です。 サーバーやネットワークに大量のリクエストやデータを送りつけることで、システムの処理能力を限界突破させ、正規の利用者がサービスを利用できない状態にする攻撃手法です。 インターネットの初期の頃から存在する、サイバー攻撃の中でも基本的かつ古くからある手法の一つであり、その脅威は常に指摘され続けてきました。 1990年代には、「Ping of Death」や「SYNフラッド」といった、DoS攻撃の代表的な手法が登場しました。 これらの攻撃は、1つの攻撃元から大量の通信を送信し、ターゲットとなるサーバーのCPU、メモリ、帯域といったリソースを枯渇させ、サービスを停止させるものでした。 その後、これらの手法は改良が重ねられ、現在では、古典的な攻撃手法に加え、新たな変種が次々と生まれています。 常に新しい対策を行わないと、小規模なWebサイトであっても、DoS攻撃によってサービス停止に追い込まれる可能性があります。 したがって、DoS攻撃の基本的な知識と対策は、すべてのWebサイト運営者にとって不可欠と言えるでしょう。 DoS攻撃とDDoS攻撃の違い DoS攻撃とよく混同されがちなのがDDoS攻撃と呼ばれるサイバー攻撃です。 以下の表は、DoS攻撃とDDoS攻撃の違いを簡潔にまとめたものです。 DoS攻撃 DDoS攻撃 攻撃元 単一のコンピュータや機器 複数の機器(ボットネットなど) 通信量 比較的少ない 大量の通信 被害のスケール 小規模な被害が中心 大規模な被害に発展しやすい 主な特徴 単一の攻撃元によるため、特定の脆弱性を狙いやすい 分散型で同時に大量の通信を送り、システム全体に圧力をかける DoS攻撃は、1つのコンピュータから実行されるため、攻撃トラフィックは比較的少量です。 一方、DDoS攻撃は、多数のコンピュータ(ボットネットなど)から同時に攻撃が行われるため、大量のトラフィックが発生し、より大規模な被害をもたらす可能性があります。 DDoS攻撃の詳しい解説は、別記事「DDoS攻撃とは」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 DoS攻撃の主な攻撃パターンとその特徴 DoS攻撃には、主に「フラッド攻撃」と「脆弱性悪用型」の2つの攻撃パターンがあります。 これらの攻撃は、システムのリソース(CPU、メモリ、ネットワーク帯域)を違った手法で枯渇させます。 攻撃タイプ 主な手法 特徴・効果 フラッド攻撃 ICMPフラッド SYNフラッド UDPフラッド 大量のパケットを一斉に送りつけ、サーバーやネットワーク帯域を急激に圧迫し、処理不能な状態にする。 脆弱性悪用型 Slowloris、Teardrop 少量のリクエストや断片化されたデータを継続的に送ることで、サーバーの接続枠や処理能力の欠陥を突き、正常な通信を阻害する。 フラッド攻撃 フラッド攻撃は、大量の通信を発生させ、サーバーのリソースを急激に消費させることで、正規の通信を妨害します。 例えば、SYNフラッド攻撃は、TCP接続の開始要求(SYNパケット)を大量に送信します。 サーバーは、各要求に対し、接続準備のためのリソースを割り当てますが、攻撃者は接続を確立させないため、リソースが枯渇し、正規ユーザーからの接続要求に応答できなくなります。 脆弱性悪用型 脆弱性悪用型攻撃は、システムの設計上の欠陥や、古いソフトウェアの脆弱性を利用し、比較的少ない通信量で攻撃を成功させます。 例えば、Slowloris攻撃は、その名の通りHTTPリクエストを極めて遅い速度で送信し続けることで、サーバーの接続を長時間占有します。 その結果、サーバーの接続数が上限に達し、新たな接続を受け付けられなくなります。 DoS攻撃が「Webサイトを落とすのは簡単」と言われる理由 DoS攻撃は、大規模な攻撃であると誤解されがちですが、実際には、以下に挙げる理由から、比較的小さなリソースでもWebサイトを停止させることが可能です。 攻撃ツールの入手が容易であること:ダークウェブなどで安価に取引されている攻撃ツールを利用すれば、専門知識がなくとも、DoS攻撃を実行できます。 脆弱性による影響:脆弱性を持つシステムは、わずかな通信量でも、サーバーの処理能力を超過し、サービス停止に至る可能性があります。 攻撃が簡単:直感的に操作できる攻撃ツールが普及しており、特別な技術がなくとも、DoS攻撃を実行できます。 このような状況から、DoS攻撃は、小規模なリソースでもWebサイトに深刻な被害を与えられるのです。 なぜDoS攻撃の被害事例が表に出にくいのか 大規模な攻撃がDDoS攻撃として報じられることが多い一方で、実際には中小規模のサイトや公共施設に対してもDoS攻撃は行われています。 しかし、以下の理由からその被害事例が公表されにくい傾向があります。 被害規模の違いによる報道の差 DDoS攻撃は、複数の攻撃元から大量のトラフィックを送りつけ、大規模なサービス停止を引き起こすため、社会全体に与える影響が大きく、メディアの注目を集めやすいです。 一方、DoS攻撃は、1つの攻撃元から行われるため、影響範囲が限定的であり、ニュースとして取り上げられることは多くありません。 標的の違いによる報道の差 DDoS攻撃は、しばしば大手企業や公共機関といった、広く注目される組織を標的にするため、被害が大きくなり報道されやすいです。 対照的に、DoS攻撃は中小規模のサイトや個人運営のサービスが標的になることが多く、結果として報道の優先度が下がります。 短期間で収束・復旧する DoS攻撃は、影響が比較的短期間で収束するケースが多いため、企業がすぐに復旧作業に取り掛かり、外部に情報が広まる前に対処することがよくあります。 このため、実際にはサイト停止など被害が発生していても、公になることが少ないのです 2ステップで始めるDoS攻撃対策 DoS攻撃は、費用をかけなくても、今すぐ始められる基本的な対策があります。 具体的な対策方法を2つのステップに分けてご紹介します。 【ステップ1】基本設定とログ監視で攻撃を早期発見 ① ファイアウォール・ルーターの設定見直し まず、ファイアウォールやルーターの設定を見直しましょう。 外部からの不要なアクセスを遮断することで、攻撃の侵入口を減らすことができます。 具体的には、以下の点を確認・設定します。 不要なポートの閉鎖: サービスで使用していないポートは閉鎖します。攻撃者が悪用できるポートを減らし、セキュリティを向上させます。 IPフィルタリング: 特定の地域や、過去に攻撃があったIPアドレスなど、不審なIPアドレスからのアクセスをブロックします。 最新ルールの適用: ファイアウォールやルーターの提供元、またはセキュリティ専門組織が公開している最新のセキュリティルールを適用します。これにより、新しい攻撃手法にも対応できます。 ② アクセスログのリアルタイム監視 次に、Webサイトへのアクセスログをリアルタイムで監視する体制を整えましょう。 普段とは異なるアクセスパターンを早期に発見することで、DoS攻撃の兆候を掴むことができます。 自動アラート設定: 例えば、短時間に大量のリクエストが集中したり、不審なIPアドレスからのアクセスがあった場合など、異常を検知したら管理者に自動で通知が届くように設定します。 ログの定期分析: 通常時のアクセスパターンと比較して、不審な点がないか定期的にログを分析します。 監視ツールの活用: クラウド型の監視ツールなどを活用すると、効率的にログを監視・分析できます。 ③速やかな初動対応 DoS攻撃の兆候を検知したら、すぐに対応することが重要です。 被害を最小限に抑えるために、以下の対応を検討しましょう。 通信の遮断・制限: 不審なアクセス元のIPアドレスからの通信を遮断したり、通信量を制限したりします。 インシデントレスポンス計画: DoS攻撃を受けた場合の対応手順(誰が、何をするか、どのように連絡を取り合うかなど)を事前に計画しておき、いざという時にスムーズに対応できるようにします。 【ステップ2】脆弱性診断と専門家活用で抜け道を塞ぐ 基本的な対策をしたら、さらに踏み込んで、システムの脆弱性を解消し、より強固なセキュリティ体制を構築しましょう。 ① パッチ適用とシステム更新 システムやソフトウェアの脆弱性は、DoS攻撃の格好の標的となります。脆弱性を解消するために、以下の対策を徹底しましょう。 定期的なアップデート: OSやアプリケーションを常に最新の状態に保つことで、既知の脆弱性を解消します。 セキュリティパッチの適用: セキュリティ上の問題点を修正するためのプログラム(セキュリティパッチ)が公開されたら、速やかに適用します。 脆弱性管理ツールの導入: 脆弱性管理ツールを利用すると、システム全体の脆弱性を定期的にチェックし、漏れなく対策できます。 ② WAF・IPSの導入 Webアプリケーションやネットワーク全体を保護するために、WAF(Web Application Firewall)やIPS(Intrusion Prevention System)の導入を検討しましょう。 WAF(Web Application Firewall): Webアプリケーションへの攻撃を検知し、防御します。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなど、Webアプリケーション特有の攻撃から保護します。 IPS(Intrusion Prevention System): 不正な通信を検知・遮断し、ネットワーク全体を保護します。DoS攻撃だけでなく、さまざまな種類の攻撃からシステムを守ります。 クラウド型セキュリティサービス: 導入や運用のコストを抑えつつ、最新のセキュリティ対策を導入したい場合は、クラウド型のセキュリティサービスが有効です。 ③ 脆弱性診断サービスの活用 上記のような対策を実施しても、完全に脆弱性を無くすことは困難です。 また、システムの設定ミスや、新たな脆弱性の発見など、セキュリティ対策は常に変化に対応していく必要があります。 そこで重要となるのが、定期的な脆弱性診断です。 脆弱性診断では、専門の技術者が、ツールや手動による検査を組み合わせて、システム全体(OS、ネットワーク、Webアプリケーションなど)に潜む脆弱性を網羅的に洗い出し、そのリスクを評価します。 弊社「株式会社アイ・エフ・ティ(IFT)」が提供する脆弱性診断サービスは、以下の特長があります。 IFTの脆弱性診断サービスの特長 自動診断と専門家による手動診断の組み合わせ 独自開発の自動スキャンツールで迅速かつ広範囲に診断を実施後、専門家が詳細に手動検証を行い、微細な脆弱性も漏れなく発見します。 対策の優先順位を明確化 発見された脆弱性のリスク評価を行い、修正の優先順位を明確に提案します。リソースを効果的に利用し、重大リスクを最優先に対処可能です。 継続的な再診断とフォローアップ体制 定期的に再診断を実施し、環境変化や新たな攻撃手法にも対応できるよう、常に最新の安全状態を保つ支援を提供します。 まとめ:対策は手軽に始められる DoS攻撃は、わずかなリクエストや脆弱性を突かれるだけでWebサイトの停止に至る危険な手法です。 しかし、基本的な防御策を実施することで、その被害リスクは大幅に軽減できます。 基本設定&ログ監視 ファイアウォールやルーターの設定を見直し、アクセスログを常時監視することで、異常な動きを早期に検知し、迅速な初動対応が可能となります。 脆弱性診断&専門家の活用 OSやソフトウェアのアップデート、WAF/IPSの導入といった対策に加え、脆弱性診断サービスを利用することで、システムの弱点を把握し、対策の優先順位を明確にできます。 現代では攻撃ツールが低コストで入手可能なため、誰もが攻撃者になり得る状況です。 大切なWebサイトを守るため、まずは現状のシステム状態をしっかり把握し、手軽に始められる対策から実施することが重要です。 大切なWebサイトを安心して運用するため、今すぐ対策を始め、万が一の被害を未然に防ぐ体制を整えましょう。 ご不明な点や追加のご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください.

【初心者向け】DDoS攻撃は防げない?その仕組みと被害を最小限に抑える対策を解説 | サイバー攻撃

【初心者向け】DDoS攻撃は防げない?その仕組みと被害を最小限に抑える対策を解説

「Webサイトが突然表示されなくなった…」そんな経験はありませんか? もしかしたら、それは「DDoS攻撃」のせいかもしれません。 最近ニュースなどでもよく耳にするこのDDoS攻撃、実は、企業規模を問わず、どんな組織にとっても他人事ではない脅威なのです。 実際に2025年3月にも、X(旧Twitter)が大規模なDDoS攻撃を受け、一時的にサービスが停止し、世界中のユーザーに大きな影響を与えました。 DDoS攻撃は、完全に防ぐことは難しいですが、事前にしっかりと備えることで、被害を大きく減らすことができます。 この記事では、「DDoS攻撃とは何か?」を初めて聞く方にもわかりやすく解説します。 攻撃の種類や実際の被害事例、そして、企業が今すぐ取り組める具体的な対策もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。  そもそもDDoS攻撃とは?初心者にもわかる仕組み DDoS(ディードス)攻撃(Distributed Denial of Service/分散型サービス拒否攻撃)とは、たくさんのコンピュータから、特定のWebサイトやサービスに一斉にアクセスを送りつけ、利用できなくするサイバー攻撃の一種です。 たとえば、人気のお店に行列ができることがありますよね。 お店に入れる人数には限りがあるので、お客さんが多すぎると、お店はパンク状態になってしまいます。 DDoS攻撃は、これと似たような状態を、インターネット上で意図的に作り出す攻撃です。 DDoS攻撃の特徴は、たくさんのコンピュータを使って攻撃することです。 攻撃元が多いため、特定して防ぐのが難しくなっています。 攻撃を受けると、Webサイトが表示されなくなったり、サービスが停止したりして、企業や組織にとって大きな痛手となることがあります。  DDoS攻撃は3つのタイプに分類 DDoS攻撃にはさまざまな種類があり、大きく次の3タイプに分類されます。 種類 主な攻撃方法 攻撃の特徴 具体例 Volumetric攻撃 (大容量トラフィック型) UDPフラッド DNSアンプ攻撃 Memcached増幅攻撃 大量のデータを一気に送りつけて、回線をパンクさせます。非常に大規模な攻撃になりやすいです。 2018年にGitHubが受けたMemcached攻撃(最大1.3Tbps) プロトコル攻撃 (通信プロトコルを悪用) SYNフラッド ACKフラッド 通信の仕組みを悪用して、サーバーのリソースを使い果たさせます。攻撃元の特定が難しいです。 攻撃者が多数の偽IPアドレスで通信を開始し、応答待ち状態を大量に作る アプリケーション層攻撃 (Webアプリの弱点を狙う) HTTPフラッド Slowloris攻撃 Webサーバーに負荷の高い処理をたくさん要求したり、接続を占有したりして、サービスを停止させます。 特定のWebページに大量のアクセスを集中させ、サーバーをダウンさせる 最近は、複数の攻撃を組み合わせるケースも増えており、一つの対策だけでは防ぎきれないことがほとんどです。 そのため、いろいろな攻撃パターンを想定して、対策を重ねることが大切です.  DDoS攻撃の一番の脅威は「物量」 DoS攻撃で一番怖いのは、その「圧倒的な物量」です。 攻撃者は、何万、何十万という数の、乗っ取ったコンピュータやIoT機器(インターネットにつながる家電など)から、一斉に大量のデータを送りつけます。 こうなると、攻撃を受ける側のサーバーは処理しきれなくなり、サービスが止まってしまいます。 たとえば、2018年には、GitHubという世界的に有名なサービスがDDoS攻撃を受けました。 この時の攻撃は、最大で「1.3Tbps」という、とてつもない規模でした これは、一般家庭の光回線(1Gbps程度)の約1300倍ものデータ量です つまり、一瞬にして1000軒以上の家のインターネット回線を全部使って攻撃されるようなもので、大きな会社でも耐えるのは非常に難しいのです。 参考:February 28th DDoS Incident Report (出典:GitHub)   最近は、ネットにつながる機器が増えたことで、乗っ取られて攻撃に使われる数も増えています。 その結果、攻撃の規模がどんどん大きくなり、今までの対策では防ぎきれないことが多くなっています。 「攻撃されても、被害を最小限に抑える」という考え方が大切です。 DoS攻撃との違い DoS攻撃(Denial of Service攻撃)は、1台のコンピュータから大量のアクセスを送って、サービスを妨害する攻撃です。 DDoS攻撃は、たくさんのコンピュータから攻撃する「分散型」という点が大きく違います。 DoS攻撃なら、攻撃元のIPアドレスを遮断すれば対処できることもありますが、DDoS攻撃では、何万、何十万というIPアドレスを同時にブロックする必要があり、簡単にはいきません。 DoS攻撃の詳細については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 なぜDDoS攻撃をするのか DDoS攻撃は、相手のサービスを止めることが目的ですが、その動機はいろいろです。 金銭目的(脅迫や身代金要求) 企業のウェブサイトやサービスを停止させ、「攻撃をやめてほしければお金を払え」と脅迫するパターンです。 実際に、日本でも金融機関などが脅迫され、攻撃されたケースがあります。 政治的・社会的抗議(ハクティビズム) 特定の国や企業、組織に対する抗議として攻撃することがあります。 2022年に、日本の政府機関などを攻撃したロシアのハッカー集団「Killnet」が有名です.  競合企業への妨害 ライバル会社のECサイトなどを狙って、サービスを止め、売上や評判にダメージを与えるのが目的です。 特に、ネットショッピングのセールの時期などに狙われることがあります.  愉快犯的行為(技術の誇示や嫌がらせ) 自分の技術力を見せびらかすために攻撃することもあります。 最近は、DDoS攻撃を請け負うサービスが闇市場で簡単に買えるため、面白半分で攻撃する人もいます.  なぜDDoS攻撃は防ぎにくい?被害事例と拡大要因 DDoS攻撃は、「一度対策すれば大丈夫」というものではありません。 攻撃方法もどんどん進化していて、世界中で繰り返し発生し、対策が難しい状況が続いています.  実際に発生した大規模DDoS攻撃の事例 日本でも、DDoS攻撃による被害は数多く起きています。大企業や金融機関だけでなく、さまざまな組織が影響を受けています。 ここでは、日本で話題になった事例をいくつかご紹介します.  日本航空(JAL)へのDDoS攻撃(2024年12月) 2024年12月、日本航空(JAL)が大規模なDDoS攻撃を受けました。 この攻撃で飛行機の運航に関わるシステムが一時的にダウンし、、国内線・国際線あわせて約80便に大幅な遅れが出ました。 最大で4時間以上も遅れた便もあり、多くの乗客や関係者に影響がありしました。 参考:JALにサイバー攻撃か 欠航や遅れも システム不具合は復旧 (出典:NHK) Killnetによる日本の官公庁への攻撃(2022年) 2022年には、ロシア系とされるハッカー集団「Killnet」が日本の複数の省庁や地方自治体、大手企業のウェブサイトに対し、連続してDDoS攻撃を実施しました。 攻撃されたウェブサイトは一時的に閲覧不能となり、攻撃者はSNSを通じて政治的メッセージを発信し、大きな社会的注目を浴びました。 参考:Killnetによる日本へのサイバー攻撃 (出典:NTTセキュリティ・ジャパン) 横須賀市のウェブサイト攻撃(2022年7月) 2022年7月、神奈川県横須賀市の公式ウェブサイトがDDoS攻撃により数時間アクセスできない状態となりました。 この攻撃により、市民への情報提供や手続き案内が一時的に停止し、行政サービスに影響が出ました。 犯行声明がインターネット上に公開されるなど、政治的・社会的な目的が疑われるケースでした。 参考:横須賀市ホームページの閲覧障害について (出典:横須賀市) こうした攻撃事例を見ると、攻撃対象が大企業や官公庁に限らず、自治体や一般企業にも広がっており、業種や規模を問わず、すべての組織がDDoS攻撃に備えることの重要性はますます高まっています。 大規模攻撃の繰り返しと長期化 DDoS攻撃は、一度で終わるとは限りません。 攻撃者は「相手が疲弊するまで続ける」という戦術を取りやすく、 同じボットネット(乗っ取ったコンピュータの集団)を使い回す 攻撃方法を次々と変える 攻撃の強さを変えて、守る側を混乱させる といった形で、組織や企業をじわじわと追い詰めます。 特に、国際的な対立が関係する政治的な抗議の場合は、「長く注目を集める」こと自体が目的になるため、攻撃が長引くことが多いです。 防御が難しい理由とよくある限界 DDoS攻撃は、「数」や「分散」だけでなく、次のような理由で防ぐのが難しくなっています.  数多くの攻撃元、IPアドレスの偽装: 世界中に数多くのボットネット端末があり、一つずつ対処してもキリがありません。 普通のアクセスと区別しにくい HTTPフラッドのように、普通のWebアクセスを大量に行う攻撃だと、サーバー側では「普通のユーザー」と見分けがつきにくいです。 サーバーや回線には限界がある どんなサーバーや回線にも、処理できる量には限界があります。 攻撃側と守る側のコストが違う 攻撃者は、比較的安い費用で大規模な攻撃ができますが、守る側は、常にシステムの強化やセキュリティサービスに費用をかけなければなりません。 このように、DDoS攻撃を「100%完全に防ぐ」のは難しいのが現実です。 だからといって何もしないと、サービスが長い間止まってしまい、会社の信用や売上に大きなダメージを受けることになります。 DDoS被害を最小化するための対策 DDoS攻撃を完全に防ぐのは難しくても、事前に準備をして、対策を重ねることで、被害を大きく減らすことはできます。 ここでは、技術的な対策と、運用面で気をつけることをご紹介します.  技術面でのDDoS攻撃対策:「遮断」「分散」「冗長化」 技術的な対策としては、「攻撃を遮断する」「攻撃を分散させる」「複数の回線を用意する」といった方法が効果的です。 WAF(Web Application Firewall)の導入 Webサイトへの不正なアクセスを見つけてブロックします。HTTPフラッドのようなDDoS攻撃にも効果があります。クラウド型なら、比較的安い費用で簡単に導入できます。 CDN(Content Delivery Network)の活用 世界中にサーバーを分散させることで、攻撃を分散させ、サーバーへの負荷を減らします。 回線冗長化 インターネット回線を複数用意しておき、攻撃されたら別の回線に切り替えて、サービスを続けます。費用はかかりますが、被害を広げないためには有効な方法です。 運用対策:監視・初動対応・連絡ルートの整理 もしDDoS攻撃を受けてしまった場合、すぐに対応できるかどうかが、被害の大きさを左右します.  監視と通知 普段と違うアクセスがないか、24時間体制で監視し、何かあったらすぐに担当者に知らせる仕組みを作りましょう。 対応マニュアルの作成 攻撃が起きた時に、「誰が」「何をするか」を事前に決めて、簡単なマニュアルを作っておきましょう。 連絡ルートの確認 もしサービスが止まってしまった場合に、お客様や取引先、関係機関にすぐに連絡できるように、連絡先や連絡方法を確認しておきましょう。   これらの対策は、攻撃を受けてからの「対処療法」です。 しかし、本当に大切なのは、攻撃を受ける前に、「自分の会社に弱点がないか」を知っておくことです。 次に紹介する「脆弱性診断」は、攻撃される前に弱点を見つける、とても重要な方法です。 脆弱性診断で、攻撃の増幅リスクを下げる DDoS攻撃を防ぐには、WAFやCDNのような対策だけでなく、「自分の会社のサーバーが、攻撃者に悪用されないようにする」ことも大切です。 サーバーの設定ミスや、古くなったソフトウェアの脆弱性(セキュリティ上の欠陥)を放置しておくと、攻撃者に悪用されてしまいます。 特に、DNSやNTP、Memcachedといった公開サービスにある小さな脆弱性が、攻撃を大きくするために利用され、知らないうちに「加害者」になってしまうこともあります。 こうしたリスクは、自分では気づきにくいため、「脆弱性診断」を受けて、早めに対策することが大切です。 脆弱性診断とは、専門家が、ツールや手作業で、システム全体(OS、ネットワーク、Webアプリケーションなど)の脆弱性を詳しく調べ、リスクを評価することです。 弊社「株式会社アイ・エフ・ティ(IFT)」が提供する脆弱性診断サービスは、次のような特長があります。 IFTの脆弱性診断サービスの特徴 低価格で継続的な診断をサポート 脆弱性診断は、一度やって終わりではありません。定期的に診断を受けることが大切です。IFTでは、お客様が無理なく続けられるように、お手頃な価格でサービスを提供しています。「他社の診断は高くて続けられない…」とお悩みの企業様も、ぜひご相談ください。 15年以上の実績と幅広いノウハウ 2009年から、金融、製造、サービス業など、さまざまな業界の脆弱性診断を行ってきました。長年の経験から、ツールだけでは見つけられない小さな弱点も、熟練の診断員が見つけ出します。 診断後のアフターフォローも充実 診断結果を報告するだけでなく、「専門用語がわからない」「どこを直せばいいかわからない」といった疑問にもお答えします。対面またはオンラインでの報告会や、修正後の再診断(無料)も行い、お客様が安心して対策を進められるようにサポートします。 DDoS攻撃の被害にあわないためにも、まずは自分の会社の弱点を知り、早めに対策をしましょう。 脆弱性診断については以下のページでも詳しく解説しています。 まとめ:DDoS攻撃の被害を最小限に抑えるために DDoS攻撃は、規模が巨大化・長期化しやすく、完全に無傷で防ぎきることは難しい攻撃手法です。 しかし、次のようなポイントを押さえるだけでも、被害を最小化できる可能性は高まります。 複数の対策を組み合わせる WAF、CDN、回線冗長化など、複数の対策を組み合わせて、さまざまな攻撃に対応できるようにしましょう。 常に監視し、すぐに対応できるようにする 普段と違うアクセスを早く見つけ、社内や関係機関への連絡をスムーズに行えるように、体制を整えましょう。 定期的な脆弱性診断と負荷テスト 自分の会社のシステムの弱点や、どこまでの攻撃に耐えられるかを知っておきましょう。 サービスが止まってしまうと、売上が減るだけでなく、信用を失ったり、お客様が離れていったりする、大きな問題につながります。 DDoS攻撃への備えは、「何もなければラッキー」くらいの気持ちで、早めに対策することをおすすめします。 大切なサービスを守るためにも、今できることから、しっかり対策を考えていきましょう。

命を守れ!医療機関のサイバー攻撃の実態と5つの脆弱性対策 | 業界別対策

命を守れ!医療機関のサイバー攻撃の実態と5つの脆弱性対策

驚くべき実態が:命をつなぐ医療機関のサイバーセキュリティの現状   近年、医療機関を標的としたサイバー攻撃が急増しています。患者の安全と個人情報が危険にさらされる事態が、もはや他人事ではなくなってきました。 厚生労働省が実施した最新の調査結果には、驚くべき実態が浮き彫りになっています。なんと、7割を超える医療機関が、サイバー攻撃に対する事業継続計画(BCP)を策定していないのです。さらに気がかりなのは、半数以上の医療機関で、ネットワークの脆弱性対策や安全性の高いオフラインバックアップが実施されていないという事実です。 出典: 「病院における医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に係る調査」(厚生労働省) 命に直結する医療機関のセキュリティ対策が、なぜここまで後手に回っているのでしょう?そして、私たちの健康と個人情報を守るため、医療機関はどんな対策を講じるべきなのでしょうか? この記事では、医療業界が直面するサイバーセキュリティの課題、実際の攻撃事例、そして効果的な対策について詳しく解説します。医療関係者はもちろん、患者である私たちにとっても、知っておくべき重要な情報です。一緒に考察していきましょう 医療データを狙う!医療機関特有の脆弱性とサイバー攻撃   医療機関は、サイバー攻撃者にとって格好のターゲットとなっています。その理由は、患者の診療記録や保険情報、さらにはクレジットカード情報といった、極めて機密性の高いデータを大量に保有しているからです。これらの情報は闇市場で高値で取引される可能性があり、攻撃者の食指が動くのも無理はありません。 さらに厄介なのが、医療機関特有の脆弱性です。古いITインフラや更新されていないソフトウェアの使用が、その代表例として挙げられます。厚生労働省の調査結果を見ると、その実態が浮き彫りになります。約40%の医療機関でリモートアクセスに使用するプログラムの更新が適切に行われておらず、約半数の医療機関がサイバー攻撃や自然災害に備えたバックアップデータすら保管していないのです。 出典:病院における医療情報システムのバックアップデータ及びリモートゲートウェイ装置に係る調査(厚生労働省) 医療機器やIoTデバイスも油断大敵です。多くが旧式のOS(オペレーティングシステム)を使用しており、これらがセキュリティホールとなる可能性が指摘されています。 こうした脆弱性は、ランサムウェア攻撃やサプライチェーン攻撃などの格好の餌食になりかねません。特に懸念されるのが、医療機関のシステムダウンが患者の生命に直結する可能性があるという点です。これは攻撃者にとって、身代金要求の絶好の機会となってしまうのです。 医療現場で発生したサイバー攻撃:実例と具体的影響   実際に起こった、医療機関の被害事例も見てみましょう。 最近の主な被害事例 2024年5月、岡山県精神科医療センターが大規模なサイバー攻撃を受けました。電子カルテシステムに不具合が生じ、最悪の場合、約4万人もの患者情報が流出した可能性があると発表されました。この事態は、医療現場に大きな衝撃を与えました。 さらに遡ると、2021年10月には徳島市民病院がランサムウェア攻撃の被害にあいました。電子カルテシステムが完全に停止し、新規患者の受け入れが制限されるという事態に。通常診療の再開までに2か月以上かかり、被害総額は約3億円に達しました。システム復旧費用約2億円に加え、医業収益の落ち込みも重なり、経営に大きな打撃を与えたのです。 2022年5月の北大阪病院の事例も見逃せません。ここでもランサムウェア攻撃により電子カルテシステムが使用不能に。幸い患者情報の漏洩は確認されませんでしたが、一部の外来診療や検査が中止に追い込まれました。 日本医師会サイバーセキュリティ支援制度の創設 こうしたサイバー攻撃の影響は、単なる情報漏洩にとどまりません。診療の遅延や中止、さらには患者の生命に関わる重大事態を引き起こす可能性すらあるのです。新規患者の受け入れ制限や救急診療の休止といった事態は、もはや珍しくありません。 この危機的状況を受け、日本医師会も動き出しました。2022年6月にサイバーセキュリティ支援制度を創設し、翌年6月にはさらに内容を拡充。会員向けに無料の相談窓口を設け、日常的なセキュリティトラブルから重大問題まで幅広く対応しています。 今や医療機関にとって、サイバーセキュリティ対策は医療サービスの質と安全性を確保するための必須条件です。患者の安全と信頼を守るため、適切なアカウント管理やシステムの定期的な更新など、基本的な対策から始めることが急務となっています。 医療機関のサイバーセキュリティ強化:5つの脆弱性対策 医療機関を狙ったサイバー攻撃から身を守るには、多角的で効果的な対策が欠かせません。ここでは、特に重要な脆弱性対策の要素について、詳しく見ていきましょう。これらの対策は、互いに補完し合うことで初めて、最大限の効果を発揮します。 脆弱性診断で潜在的リスクを特定 脆弱性診断は、セキュリティ対策の要となる重要な施策です。この診断を通じて、組織のセキュリティ上の弱点を見つけ出し、迅速に対応することができます。定期的な診断により、日々進化するサイバー脅威に対しては、常に最新の防御態勢が求められます。 定期的なシステム更新で既知の脅威を防御 医療機関は、使用中のソフトウェアや機器の脆弱性を常にチェックし、適切なセキュリティパッチを当てる必要があります。これにより、既知の脆弱性を狙った攻撃を未然に防げます。更新作業の自動化は、この過程をスムーズに進め、人為的ミスを減らす効果的な手段となります。 厳格なアクセス制御で医療情報を守る 多要素認証の導入や、役割ベースのアクセス制御は、不正アクセスのリスクを大幅に軽減します。特に、機密性の高い医療情報システムへのアクセスには、厳格な認証手順を設けることが重要です。 ネットワーク分離で情報漏洩リスクを最小化 ネットワークセキュリティの強化も見逃せません。ネットワークの分離や侵入検知システムの導入により、外部からの攻撃をいち早く察知し、被害を最小限に抑えることが可能になります。 医療IoT機器の保護で患者の安全を確保 医療機器とIoTデバイスの保護は、患者の安全に直結する重要な課題です。具体的には、ネットワークの分離、アクセス制御の強化、定期的なソフトウェア更新が効果的です。さらに、継続的な監視とセキュリティ評価の実施、データの暗号化も欠かせません。これらの対策を総合的に実施することで、デバイスのセキュリティを格段に向上させることができるのです。 まとめ:患者の安全を守るサイバーセキュリティ強化 本記事では、医療業界の現状や特有の脆弱性、実際に起きた攻撃事例、そして具体的な対策について詳しく見てきました。医療機関のサイバーセキュリティ対策は、もはや避けては通れない重要課題です。患者データを守り、医療サービスを途切れさせないためには、万全の備えが必要です。 対策の要となるのは、システムの定期的な更新、アクセス制御の強化、ネットワークの適切な分離、そして医療機器やIoTデバイスの保護です。さらに、組織全体でセキュリティ意識を高めることも欠かせません。 これらの対策を効果的に実施するには、専門的な知識と豊富な経験が求められます。 当社の脆弱性診断サービスは、15年以上の診断実績を持つプロの診断員と業界No.1の診断ツールを組み合わせ、Webやシステムの脆弱性対策をサポートします。 医療機関のセキュリティ強化にお悩みの方は、ぜひ当社にご相談ください。経験豊富な専門スタッフが、丁寧にご対応いたします。お問い合わせフォームまたはお電話でのご連絡を、心よりお待ちしております。  

小売業特有のサイバー攻撃の仕組みと脆弱性対策をすべて解説! | 業界別対策

小売業特有のサイバー攻撃の仕組みと脆弱性対策をすべて解説!

あなたの店舗は、今この瞬間にサイバー攻撃の標的になっているかもしれません。 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「情報セキュリティ10大脅威 2024」によると、ランサムウェアによる被害が9年連続で組織における最大の脅威として選出されています。小売業も例外ではありません。 では、なぜ小売業がサイバー犯罪者の格好のターゲットなのでしょうか?それは、顧客の個人情報や決済データという「デジタルゴールド」を大量に扱っているからです。 この記事では、小売業界特有の脆弱性や最新のサイバー攻撃手法を解説し、効果的な対策をご紹介します。大手企業はもちろん、中小の小売店舗でも実践できる具体的な防御策に焦点を当てていきます。 サイバーセキュリティは一見難しそうですが、基本的な対策を知り実践することで、店舗とお客様の大切な情報を守りましょう。 出典:情報セキュリティ10大脅威 2024(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)) 小売業が直面する脆弱性とリスク:デジタル時代の5つの課題 小売業界が直面する主な脆弱性とリスクについて、詳しく見ていきましょう。大量の顧客データ管理から、POSシステムの問題点、セキュリティ専門家の不足、さらにはサプライチェーンのリスクまで、業界特有の課題を一つずつ解説していきます。 顧客データ漏洩のリスクが高額な身代金要求を招く 小売業界は、膨大な顧客情報を扱うがゆえに、サイバー攻撃の恰好の的となっています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の最新レポート「情報セキュリティ10大脅威 2024」によれば、「ランサムウェアによる被害」が9年連続で組織における最大の脅威として選ばれました。 出典:情報セキュリティ10大脅威 2024(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)) ランサムウェアとは、身代金を意味する「Ransom(ランサム)」と「Software(ソフトウェア)」を組み合わせた造語で、金銭(身代金)を要求するソフトウェアです。 小売業がこのランサムウェアの被害のターゲットになりやすい理由としては以下の2つがあげられます。 大量の顧客データの取り扱い まず、小売業界は大量の顧客データを扱っており、氏名、住所、電話番号、クレジットカード情報など、攻撃者にとって非常に価値のある情報が蓄積されています。このようなデータが漏洩すると、顧客に大きな金銭的損失をもたらす可能性があるため、攻撃者はこの情報を狙います。 「時間」による損失が大きいため、身代金を支払ってしまう 小売業界は、例えば、年末商戦やセール期間中など、売上が高まる時期が明確です。このような時期には企業が早急に業務を再開させる必要があるため、攻撃者は身代金の支払いを要求しやすくなります。企業はこのような状況下では、攻撃者の要求に従ってしまうケースも多いのです。 最新化されていないPOSシステムの脆弱性 POSシステムは小売業の命綱ですが、同時にサイバー攻撃の格好のターゲットでもあります。顧客の決済情報を直接扱うため、攻撃者にとって格好の攻撃対象となっています。特に、古いソフトウェアの使用や、セキュリティアップデートの遅れ、インターネット接続による遠隔からの不正アクセスリスクなどが、主な弱点となっています。 セキュリティ人材不足の現実 サイバーセキュリティの専門知識を持つ人材の確保が大きな課題となっています。急速に変化するデジタル環境に対応するには専門知識のある人材が不可欠ですが、多くの小売業者、特に中小規模の事業者にとって、その採用や育成は容易ではありません。 サプライチェーンの脆弱性 経済産業省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」は、サプライチェーンにおけるセキュリティリスクの重要性を指摘しています。小売業は多数の取引先と連携しているため、サプライチェーン全体でのセキュリティ対策が必須となります。これらの脆弱性は、ランサムウェア攻撃やデータ漏洩などの深刻な被害につながる可能性があります。 小売業者には、これらのリスクを正しく認識し、適切な対策を実施することが求められています。 出典:中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)) 小売業に多いサイバー攻撃とその手口 小売業が直面する主要なサイバー攻撃とそのリスクについて、詳しく見ていきましょう。 Webサイト攻撃、ランサムウェア攻撃、フィッシング攻撃、POSマルウェア攻撃、そしてサプライチェーン攻撃の5つを取り上げ、それぞれの特徴と小売業界への影響を解説します。 Webサイト攻撃:ECサイトを狙う巧妙な手口と対策 ECサイトを運営する小売業者にとって、Webサイト攻撃は特に厄介な問題です。顧客の個人情報や決済データの漏洩、サイトの改ざん、さらには悪意のあるコードの仕込みによる顧客端末への二次攻撃など、被害は多岐にわたります。一度信頼を失えば、取り戻すのは容易ではありません。 ランサムウェア攻撃:小売業の業務を人質に取る新たな脅威 先ほどもご紹介した通り、ランサムウェア攻撃は、小売業者のシステムやデータを暗号化し、身代金を要求する悪質な攻撃です。業務の中断や顧客データの喪失につながる可能性があり、その影響は甚大です。 フィッシング攻撃:小売業の従業員と顧客を狙う巧妙な罠 フィッシング攻撃は、偽のメールやウェブサイトを餌に、従業員や顧客から機密情報を釣り上げる手口です。小売業界では、顧客の個人情報や決済データが主な標的。一度釣られれば、信頼回復までの道のりは険しいものとなります。 POSマルウェア攻撃:レジを狙う静かなる脅威の実態 POSマルウェア攻撃は、店舗のPOSシステムを狙い撃ちにし、顧客のクレジットカード情報などを盗み取ります。直接的な金銭被害はもちろん、顧客の信頼喪失という大きなダメージをも招きかねません。 サプライチェーン攻撃:小売業の弱点を突く新たな攻撃手法 サプライチェーン攻撃は、小売業者の取引先や供給業者を踏み台にする間接的な攻撃です。複雑なサプライチェーンを持つ小売業界では特に警戒が必要で、その影響は予想以上に広範囲に及ぶ可能性があります。 小売業における最新のサイバー攻撃事例   以下に、近年に日本で発生した代表的な2つの事例を紹介しますが、これらは氷山の一角に過ぎません。 アパレル企業の個人情報流出事件 2023年1月、大手アパレル企業が自社の管理するサーバーへの不正アクセスにより、顧客の個人情報が流出した可能性があると発表しました。この事件では、同社が運営するECサイトの顧客情報約104万件が影響を受けた可能性があります。流出した可能性のある情報には、氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどが含まれていました。 家電量販店の通販サイト不正アクセス事件 2023年12月、大手家電量販店が運営する通販サイトで不正ログインとなりすまし注文が発生したと発表しました。この事件では、約1,900件の顧客アカウントが侵害され、個人情報の流出や不正注文による金銭被害が確認されました。攻撃の手口は「リスト型攻撃」。他のサイトから流出したIDとパスワードの組み合わせを使った、いわば「使い回し」によるものと見られています。 これらは公表された大規模な事例の一部に過ぎません。実際には、大手だけでなく中小の小売業者も含め、業界全体で日々様々な攻撃が起きています。顧客の信頼を守るため、最新のセキュリティ対策はもちろん、従業員教育や定期的なセキュリティ監査も欠かせません。 小売業のための脆弱性対策:サイバー攻撃から店舗を守る3つの鍵 小売業に特化した脆弱性対策とサイバー攻撃への防御策をご紹介します。 脆弱性診断:あなたの店舗の「穴」を見つける まずは自社システムの弱点を知ることから始めましょう。定期的な脆弱性診断を実施することで、潜在的なリスクを早期に発見し、対策を講じることができます。特に、POSシステムやECサイトなど、顧客データを扱う重要なシステムは優先的にチェックしましょう。 多層防御:一枚岩のセキュリティは存在しない 単一の対策に頼るのは危険です。ファイアウォール、侵入検知システム(IDS)、多要素認証(MFA)など、複数の防御層を組み合わせることで、攻撃者の侵入を困難にします。 これは、城を守るように複数の防御線を張り巡らせる対策です。まず外周には、ファイアウォールという強固な壁を設けます。これは、不審な通信を遮断し、潜在的な脅威を門前払いします。その内側には、侵入検知システム(IDS)という見張り番を配置。怪しい動きを素早くキャッチし、警報を鳴らします。さらに内部では、エンドポイントセキュリティが各デバイスを守ります。 特に注意が必要なのが、POSシステムやECサイトです。これらは顧客の機密情報を扱う重要拠点。ここでは、暗号化技術でデータを保護し、定期的な脆弱性診断で弱点を洗い出します。万が一、脆弱性が見つかった場合は、迅速なパッチ適用と、影響範囲の隔離が鍵となります。 従業員教育:最後の防御壁は人 技術的対策だけでは不十分です。従業員一人ひとりがセキュリティの重要性を理解し、適切に行動できるよう、定期的な教育と訓練が欠かせません。フィッシングメールの見分け方や、安全なパスワード管理など、基本スキルの習得で人的ミスによるリスクを大幅に減らせます。 まとめ:小売業のサイバーセキュリティ強化は待ったなし 小売業界でのサイバーセキュリティの重要性は、もはや議論の余地がありません。顧客データの保護、POSシステムの脆弱性対策、多層防御の導入は、もはや選択肢ではなく必須となっています。 将来を見据えると、AIやブロックチェーンを駆使したセキュリティ対策、クラウドセキュリティの強化、ゼロトラストアーキテクチャの採用が注目を集めています。しかし、忘れてはならないのが人的要素。従業員教育の継続とセキュリティ文化の醸成は、技術と同等に重要です。 当社の脆弱性診断サービスは、小売業界特有の課題にも対応した包括的なセキュリティ評価を提供します。業界No.1の診断ツール「Vex」を使用し、Webアプリケーションからネットワークまで、幅広い範囲の脆弱性を検出します。 あなたの店舗のセキュリティ状況を把握し、効果的な対策を立てるための第一歩として、ぜひ当社の診断サービスをご利用ください。  

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