
2025.04.24
投稿日:2025.04.24 最終更新日:2025.04.24
「うちのWebシステムのセキュリティ、本当にこれで大丈夫なのかな…?」
「Webアプリのセキュリティ対策、何から手をつければいいんだろう…?」
Webアプリケーションの開発や運用に携わっていると、こんな不安を感じることはありませんか?
セキュリティ対策は、今や避けて通れない重要な課題ですよね。
そんなセキュリティ対策の「羅針盤」となるのが、世界の専門家たちが示す重大リスクリスト「OWASP Top 10」です。
この記事では、最新版(2021年)のOWASP Top 10で指摘されている10個のリスクとその対策のポイント、そして「なぜ対策がこれほど重要なのか?」という理由を、分かりやすく解説していきます。
さらに、ツールを使ったセルフチェックから専門家への依頼まで、あなたの会社に合った、費用対効果の高い対策アプローチを見つけるためのヒントもお伝えします。
目次
まず、「OWASP Top 10」がどのようなものなのか、その背景から見ていきましょう。
OWASP(オワスプ:Open Web Application Security Project)は、Webアプリケーションのセキュリティ向上を目指す、世界的な非営利コミュニティです。
世界中のセキュリティ専門家がボランティアで参加し、セキュリティに関するガイドラインやツール、脆弱性に関する情報などを無償で公開しています。
特定の企業や製品に偏らない、中立的な立場からの情報発信が、その高い信頼性の源となっています。
OWASP Top 10は、OWASPが定期的に発表している、Webアプリケーションにおける最も重大なセキュリティリスクのトップ10リストです。
実際の攻撃データや専門家の知見に基づいて選定され、通常3〜5年ごとに更新されています(現在の最新版は2021年版です)。
このリストは、
といった役割を担っています。
ただし、注意点として、OWASPは対象領域ごとに様々なTop 10リストを作成・公開しています。
例えば、
スマートフォンアプリ向けの「OWASP Mobile Top 10」(2024年版が最新)
OWASP Mobile Top10 – 2021
APIのセキュリティに特化した「OWASP API Security Top 10」(2023年版が最新)
OWASP Top 10 API Security Risks – 2023
大規模言語モデル(LLM)向けの「OWASP Top 10 for LLM Applications」(2025年版が最新)
OWASP Top 10 for LLM Applications – 2025
などがあります。
このように、それぞれ対象や更新年が異なるので、情報を参照する際はどのリストかを確認することが大切です。
この記事では、その中でも最も基本的かつ広く参照されている「Webアプリケーション版」のOWASP Top 10(2021年版)に焦点を当てて解説を進めます。
Webセキュリティに関わるなら、まず押さえておくべき内容と言えるでしょう。
最新版「OWASP Top 10 2021」で指摘されている10個のリスクは以下の通りです。
A01: アクセス制御の不備 (Broken Access Control)
A02: 暗号化の失敗 (Cryptographic Failures)
A03: インジェクション (Injection)
A04: 安全でない設計 (Insecure Design)
A05: セキュリティ設定のミス (Security Misconfiguration)
A06: 脆弱で古くなったコンポーネント (Vulnerable and Outdated Components)
A07: 識別と認証の失敗 (Identification and Authentication Failures)
A08: ソフトウェアとデータの整合性の不具合 (Software and Data Integrity Failures)
A09: セキュリティログと監視の失敗 (Security Logging and Monitoring Failures)
A10: サーバーサイドリクエストフォージェリ (Server-Side Request Forgery – SSRF)
それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
これは、ユーザーごとに許可された範囲を超えて、他のユーザーの情報や管理者向けの機能などにアクセスできてしまう問題のことです。
情報漏洩や不正なデータ改ざん、最悪の場合はシステム乗っ取りにまで直結する可能性があり、2021年版では最も深刻なリスクと位置づけられています。
パスワードやクレジットカード情報といった機密データを守るための暗号化処理や、暗号化に使う「鍵」の管理に不備がある状態を指します。
これが原因で、通信内容が盗聴されたり、保存されている機密情報が大規模に漏洩したりする危険があり、企業の信用を大きく損なってしまいます。
ユーザーからの入力データ(検索キーワードやフォーム入力など)に、悪意のある命令(データベースを操作するSQL文など)が「注入(インジェクション)」され、システムが不正に操作されてしまう攻撃の総称です(クロスサイトスクリプティング(XSS)もここに含まれます)。
データベース内の情報を盗まれたり、改ざん・破壊されたりするだけでなく、サーバー自体が乗っ取られるなど、極めて深刻な被害を招いてしまいます。
これは、個々のプログラムの書き方(実装)の問題ではなく、アプリケーションの設計段階でのセキュリティ考慮不足が原因となるリスクです。
設計段階での見落としは、後から修正するのが難しく、コストもかさみがちです。
また、他の脆弱性を引き起こす原因にもなります。
Webサーバーやデータベース、クラウドサービスなどの設定が不適切だったり、危険な初期設定(デフォルトパスワードなど)のまま放置されたりすることで生じる脆弱性です。
これらが、不正アクセスや情報漏洩、システム改ざんの直接的な「入口」となってしまうことがあります。
利用しているライブラリやフレームワークといったソフトウェア部品(コンポーネント)に、既知の脆弱性が存在したり、サポートが終了した古いバージョンを使い続けたりしている状態です。
攻撃者は、広く知られている弱点を効率的に狙ってくるため、システムへの侵入を簡単に許してしまう原因となります。
ユーザーが誰であるかを確認したり(識別)、本人であることを検証したりする仕組み(認証)、つまりログイン周りの機能に不備がある状態のことです。
これにより、他人になりすまして不正にログインされたり、それに伴って個人情報が盗み見られたり、不正な操作が行われたりします。
ソフトウェアのアップデートファイルや、外部から取り込むデータについて、その信頼性や改ざんの有無を十分に検証しないことで生じるリスクです。
正規のアップデートに見せかけてマルウェアを混入させるなど、ソフトウェア供給網(サプライチェーン)を狙った深刻な攻撃につながります。
不正アクセスやシステムエラーといった出来事の記録(ログ)が不十分だったり、記録されたログが適切に監視・分析されていなかったりする状態です。
これでは、攻撃を受けても発見が遅れて被害が拡大したり、問題が発生した後に原因を突き止めることが困難になります。
攻撃者が、脆弱性のあるWebサーバーを踏み台にして、そのサーバーから内部ネットワークの他のサーバーや、外部の特定のサーバーなどへ、意図しないリクエストを送信させる攻撃です。
本来アクセスできないはずのファイアウォール内部への不正アクセスや、機密情報(クラウド環境の認証情報など)の窃取につながる危険があります。
皆さんの関わるシステムにも、思い当たる点や、すぐに対策が必要だと感じた項目があったのではないでしょうか?
これらは、現在のWebアプリケーションが抱える、特に重要度の高いセキュリティ上の脅威です。
一つでも対策が漏れていれば、それが大きなインシデントの引き金となる可能性も否定できません。
では、なぜこれらのリスクへの対策が、ビジネスを守る上でこれほどまでに重要なのでしょうか?
その理由を次に詳しく解説していきます。
ここまでOWASP Top 10の各リスクを見てきましたが、「なぜ、これらの対策がそれほどまでに重要視されるのか?」という点について、改めて考えてみましょう。
理由は大きく分けて2つあります。
すでにお伝えした通り、OWASP Top 10は特定の企業や組織の意見ではなく、世界中のセキュリティ専門家の知見と実際の攻撃データに基づいて作成された、信頼性の高い指標です。
そのため、以下のような大きな影響力を持っています。
業界標準としての認識 | 多くの企業や開発現場で、Webアプリケーションのセキュリティレベルを測るための共通の物差しとして認識されています。 |
---|---|
開発・調達要件への組み込み | 新しいシステムを開発する際や、外部のサービスを導入する際に、OWASP Top 10への準拠を要件として求めるケースが増えています。 |
他のセキュリティ基準でも推奨 | PCI DSS(クレジットカード業界のセキュリティ基準)やNIST(米国国立標準技術研究所)などが発行する他のセキュリティガイドラインやフレームワークでも、OWASP Top 10への対応が推奨・参照されています。 |
つまり、OWASP Top 10への対策は、単なる技術的な推奨事項にとどまらず、ビジネス上の要求やコンプライアンス遵守の観点からも無視できないものになっているのです。
顧客や取引先からの信頼を得るためにも、この世界標準への対応は不可欠と言えるでしょう。
OWASP Top 10で挙げられている脆弱性は、実際に多くのサイバー攻撃で悪用されており、対策をしなかった場合には、ビジネスに深刻なダメージを与えかねません。
情報漏洩 | 顧客情報、個人情報、企業の機密情報などが外部に流出し、損害賠償請求や社会的信用の失墜につながります。(例:A02 暗号化の失敗、A03 インジェクションによるデータベースからの情報窃取) |
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金銭的損失 | 不正送金、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)による被害、サービス復旧にかかる費用、訴訟費用など、直接的な金銭被害が発生します。 |
サービス停止 | Webサイトが改ざんされたり、サービス妨害(DoS)攻撃を受けたりして、サービス提供が不可能になり、ビジネス機会の損失や顧客離れを引き起こします。(例:A05 セキュリティ設定ミスによる不正アクセス、A09 ログ監視の失敗による攻撃検知の遅れ) |
法的責任 | GDPR(EU一般データ保護規則)や日本の改正個人情報保護法など、国内外の法規制に基づき、多額の制裁金が科される可能性があります。 |
ブランドイメージの失墜 | セキュリティインシデントは大きく報道されることも多く、一度失った企業の評判やブランドイメージを回復するには、長い時間と多大なコストがかかります。 |
過去には、OWASP Top 10に含まれる脆弱性が原因で、大手企業が大規模な情報漏洩事件を引き起こした例も少なくありません。
米国の信用情報会社Equifax社の事件では、Webアプリケーションフレームワークの既知の脆弱性(A06 脆弱で古くなったコンポーネントに該当)を修正せずに放置したことが原因で、約1億4700万人分もの膨大な個人情報が漏洩しました。
出典:「Equifax Data Breach (epic.org)」
米国の金融大手Capital One銀行の事件では、クラウド環境の設定ミス(A05 セキュリティ設定ミス)とSSRF(A10)の脆弱性を突かれ、攻撃者が内部の管理情報に不正アクセス。結果として、約1億600万人分の顧客申請情報などが漏洩する事態となりました。
出典:「A Case Study of the Capital One Data Breach (MIT)」
これらは極めて被害が大きかった代表的な事例ですが、決して他人事ではありません。
自社のビジネスと顧客を守るためには、OWASP Top 10で指摘されている基本的なリスクへの対策を、一つひとつ確実に実施していくことが、極めて重要なのです。
急増するサイバー攻撃:直近3年間で被害「2.4倍」に サイバー攻撃の脅威は年々増大しており、特に国内においては過去3年間でそのリスクが2.4倍にも膨れ上がっています。 この急激な増加の背景には「攻撃手法の高度化」が大きく関与しており、こうした攻撃の多くはシステムに内在する「脆弱性」を巧みに悪用す
では、具体的にどのように対策を進めていけば良いのでしょうか?
限られた予算やリソースの中で最大限の効果を出すには、「ツールによる自動診断」と「専門家による手動診断」をうまく組み合わせることがポイントになります。
まず手軽に始められるのが、脆弱性診断ツールを使ったセルフチェックです。
特に、OWASP自身が提供している無償のツール「OWASP ZAP」が有名です。
ツールを使うメリットは、広範囲を自動で、かつ手軽にチェックできる点にあります。
特に、パターン化しやすい脆弱性(例えば、A03 インジェクションの一部、A05 セキュリティ設定ミス、A06 脆弱で古くなったコンポーネントなど)の発見に役立ちます。
企業がサイバー攻撃から大切な情報資産を守るためには、システムに潜んでいるセキュリティ上の弱点、つまり「脆弱性」をいち早く見つけ出し、きちんと対処することがとても大切です。 その有効な手段が「脆弱性診断ツール」です。 しかし、数多く存在するツールの中から、自社に最適なものを選び出すのは、なかなか難
ただし、ツールだけでは万全とは言えません。
複雑な手順が必要な攻撃や、設計上の問題(A01 アクセス制御の不備、A04 安全でない設計など)は見つけにくい傾向があります。
また、実際には問題ない箇所を脆弱性として検出してしまう「誤検知」も起こり得ます。
診断結果を正しく判断し、対応するには、ある程度の知識も必要です。
ツールによる診断は、あくまで最初のスクリーニング(ふるい分け)と捉えるのが良いでしょう。
ツールでのチェックには限界があります。
そこで頼りになるのが、セキュリティ専門家による脆弱性診断です。
専門家は、攻撃者の視点に立って、ツールだけでは見逃してしまうような複雑な脆弱性(特にA01 アクセス制御の不備やA04 安全でない設計など)を発見することができます。
発見されたリスクの深刻度を正確に評価し、具体的な修正方法までアドバイスをもらえる点も大きなメリットです。
これは、社内だけでなく、顧客や取引先に対する信頼性の証明にも繋がります。
私たちIFTがこれまでに1,000件以上の診断を行ってきた経験からも、専門家による診断の重要性を実感しています。
もちろんコストはかかりますが、万が一、深刻なセキュリティインシデントが発生した場合の損害(復旧費用、賠償金、信用の失墜など)を考えれば、リスクを未然に防ぐための有効な投資と言えます。
では、結局どう進めるのがベストなのでしょうか?
システムの重要度や複雑さ、開発フェーズ、そして予算に応じて、ツール診断と専門家診断を最適に組み合わせることが、もっとも費用対効果を高めます。
株式会社アイ・エフ・ティでは、ツール診断の網羅性と専門家診断の深さを組み合わせた『ハイブリッド診断』を提供しています。
費用対効果の高い選択肢として、多くのお客様からご評価いただいています。
簡易的なクイック診断から、網羅的なハイブリッド診断、そして診断後のフォローアップまで、一貫してサポートいたします。
「ツールだけだと、やっぱり不安が残る…」「うちのシステムには、どの診断方法が合っているんだろう?」
そんな疑問やお悩みをお持ちでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。
ここまで、OWASP Top 10の重要性と10のリスク、そして対策の必要性について見てきました。
「OWASP TOP10 とは?」という疑問から始まり、Webセキュリティの基本として対策が不可欠であること、しかしその方法選びが重要であることをご理解いただけたかと思います。
対策としては、ツール診断×専門家診断の組み合わせが、費用対効果を高めるポイントになります。
OWASP Top 10はWebセキュリティ対策の基本指標
対策不足は深刻なビジネスリスクに直結
ツール診断は手軽だが限界あり
専門家診断は確実だがコストがかかる
「ツール+専門家」の組み合わせが費用対効果大
「自社に合う対策は?」「費用は?」そんな具体的な悩みに、私たち株式会社アイ・エフ・ティがお応えします。
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まずはリスクの再確認から始め、より具体的な診断にご興味があれば、ぜひお気軽にご相談ください。
セキュリティサービス事業部 コンサルタント/プログラマーからシステム運用を経て情報セキュリティ全般の業務に従事。現在は培った情報セキュリティの経験を活かしお客様の課題に向き合った企画やマーケティングを担当。